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二千年の時を超えて読めるギリシア「三大悲劇詩人」の作品

ギリシア悲劇への誘い(1)ギリシア悲劇を観る

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
情報・テキスト
ソフォクレス
出典:Wikimedia Commons
「三大悲劇詩人」といわれるアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス。彼らは紀元前5世紀のアテナイで活躍し、ギリシア悲劇を完成させた。それぞれの作品は現代まで受け継がれ、さまざまな言語に翻訳されて上演、映画化されている。今回はその代表的な作品を紹介する。(全7話中第1話)
時間:11:44
収録日:2021/03/30
追加日:2022/01/25
≪全文≫

●日本語でも読めるギリシア「三大悲劇詩人」の作品


 皆さん、こんにちは。「ギリシア悲劇への誘い」というシリーズで今回からお話をさせていただきます。東京大学の納富信留と申します。ギリシア悲劇を観るということで、今日はその最初にイントロダクションの話をします。

 ギリシア悲劇は英語で“Greek Tragedy(グリーク・トラジェディ)”といいます。名前は聞いたことがあると思いますが、それが一体どういうものなのか、どういう面白さがあるのかを皆さんにご紹介して、ぜひその世界に親しんでいただきたいと思っています。

 私自身はギリシア哲学の専門家ですが、ギリシア悲劇は狭い意味での文学にとどまらず、歴史や哲学など非常に広い分野に関係しています。今回はそういう視点から、少し突っ込んだ部分も含めてご紹介していきたいと思います。

 まず、ギリシア悲劇をほとんどご覧になったことがない方が多いと思いますので、イントロダクションとしてギリシア悲劇について簡単におさらいしたいと思います。

 古代ギリシアといっても、ギリシア悲劇がつくられて上演されていたのは、まさに紀元前5世紀の最盛期で、1世紀に満たない時期に集中しています。皆さんご存知かと思いますが、その時代は現在のギリシアの首都アテネにあるパルテノン神殿が再建され、今はその遺構が残っています。ペリクレスという政治家が民主制を確立し、ソクラテスが活躍した、文明の華やかな時代です。

 この時代は、ここ(ホワイトボード)に板書しましたが、「三大悲劇詩人」といわれているアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスの3人が競い合って活躍した時代でもあります。そうはいっても、この3人だけではなく、実は他にもたくさんいました。しかし残念ながら、現在まで作品が残っている悲劇詩人はこの3人だけです。よく見ると、年代も少しずつずれています。アイスキュロス(紀元前525年頃~紀元前456年)はだいぶ前の人で、ソフォクレス(紀元前496年頃~紀元前406年)とエウリピデス(紀元前480年頃~紀元前406年)も生まれた時期はだいぶ違いますが、実はエウリピデスのほうが少し早く亡くなっています。こういう3人がそれぞれ競い合った時代です。

 2400~2500年を経て、現在までに33作品が現存し、翻訳もされています。アイスキュロスとソフォクレスはそれぞれ7作品、エウリピデスは19作品残っています。全て日本語の複数の訳で読むことができます。

 アイスキュロスは、ペルシア戦争の有名な「マラトンの戦い」に参戦した古いタイプのアテナイの勇士です。ソフォクレスは将軍としても活躍して、海軍を率いてサモス島で戦いました。このように、実は文学者というよりも、当時の政治家、あるいは社会的に活躍した人たちです。エウリピデスはそういう経歴はあまりありませんが、この人たちが競い合った時代です。

 ギリシア悲劇は、アイスキュロスが生まれる少し前から始まったといわれています。彼らは100を超える作品を残していたのですが、現在まで伝わっている作品は限られているのです。

 アイスキュロスは今回お話しする時間がないのですが、『オレステイア三部作』という代表作があり、これはものすごい迫力の作品です。

 ソフォクレスは今回のシリーズで詳しく紹介しますが、有名な『オイディプス王』や『アンティゴネー』といった作品があります。

 エウリピデスにもやはりさまざまな作品がありますが、『ヒッポリュトス』や『王女メデイア』などの作品が有名です。


●現代に蘇るギリシア悲劇


 悲劇は、「劇」という日本語でお分かりのように、上演されるものです。皆さん写真などでご覧になったことがあると思いますが、ギリシアでは野外にある半円形の劇場で演じられていました。ではこのギリシア悲劇の上演を観ることがどのくらいあったのかというと、当然近現代では観る機会はほとんどありませんでした。

 日本ではこの数十年ぐらい、割にギリシア悲劇を観たことのある人がいるのは蜷川幸雄さんの影響が大きいと思います。蜷川さんはシェイクスピアも有名ですが、ギリシア悲劇では、『王女メディア』を平幹二朗さんと大竹しのぶさん主演の2つのシリーズで上演して大変好評を博し、海外でも評価されました。

 蜷川さんはもう一つ、『オイディプス王』を複数のバージョンで上演しました。これはDVDにもなっています。私が大学の学部生だった1986年に、高いチケットを買って実際に築地にある本願寺の野外で拝見しました。平幹二朗さんとギリシアから来たアスパシア・パパサナシウという女優さんが、日本語とギリシア語で掛け合いながら境内の階段で演じるのですが、...
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