●日本語でも読めるギリシア「三大悲劇詩人」の作品
皆さん、こんにちは。「ギリシア悲劇への誘い」というシリーズで今回からお話をさせていただきます。東京大学の納富信留と申します。ギリシア悲劇を観るということで、今日はその最初にイントロダクションの話をします。
ギリシア悲劇は英語で“Greek Tragedy(グリーク・トラジェディ)”といいます。名前は聞いたことがあると思いますが、それが一体どういうものなのか、どういう面白さがあるのかを皆さんにご紹介して、ぜひその世界に親しんでいただきたいと思っています。
私自身はギリシア哲学の専門家ですが、ギリシア悲劇は狭い意味での文学にとどまらず、歴史や哲学など非常に広い分野に関係しています。今回はそういう視点から、少し突っ込んだ部分も含めてご紹介していきたいと思います。
まず、ギリシア悲劇をほとんどご覧になったことがない方が多いと思いますので、イントロダクションとしてギリシア悲劇について簡単におさらいしたいと思います。
古代ギリシアといっても、ギリシア悲劇がつくられて上演されていたのは、まさに紀元前5世紀の最盛期で、1世紀に満たない時期に集中しています。皆さんご存知かと思いますが、その時代は現在のギリシアの首都アテネにあるパルテノン神殿が再建され、今はその遺構が残っています。ペリクレスという政治家が民主制を確立し、ソクラテスが活躍した、文明の華やかな時代です。
この時代は、ここ(ホワイトボード)に板書しましたが、「三大悲劇詩人」といわれているアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスの3人が競い合って活躍した時代でもあります。そうはいっても、この3人だけではなく、実は他にもたくさんいました。しかし残念ながら、現在まで作品が残っている悲劇詩人はこの3人だけです。よく見ると、年代も少しずつずれています。アイスキュロス(紀元前525年頃~紀元前456年)はだいぶ前の人で、ソフォクレス(紀元前496年頃~紀元前406年)とエウリピデス(紀元前480年頃~紀元前406年)も生まれた時期はだいぶ違いますが、実はエウリピデスのほうが少し早く亡くなっています。こういう3人がそれぞれ競い合った時代です。
2400~2500年を経て、現在までに33作品が現存し、翻訳もされています。アイスキュロスとソフォクレスはそれぞ...