ギリシア悲劇への誘い
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ギリシア悲劇と喜劇の違い…ギリシア悲劇の3つの特徴
ギリシア悲劇への誘い(2)ギリシア悲劇とは何か
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
ギリシア悲劇は、現代の演劇やミュージカルと大きく異なる形式を持っているだけではなく、同時代に盛んになったギリシア喜劇とも、作劇上の違いがある。ギリシア悲劇に見られる特徴から、当時のギリシア社会の一端を垣間見ることができる。(全7話中第2話)
時間:12分03秒
収録日:2021年3月30日
追加日:2022年2月1日
≪全文≫

●悲劇と喜劇の語源と作劇における違い


 ギリシア悲劇とは何かについて、もう少し説明を加えていきます。なぜなら、私たちが知っている演劇とギリシア悲劇はかなり違うからです。

 その特徴を見る前に、まずこれが「詩」だということを強調しておきたいと思います。ギリシアの詩には韻律があるので、私はなかなかうまく読めないかもしれませんが、あとで取り上げる『オイディプス王』という作品の最初の3行を読んでみます。全てが非常に特殊な韻律の詩でつくられているので、普通の口語表現とは少し違います。

 では、『オイディプス王』の最初の部分のセリフを読みます。

 今3行分読んだのですが、長短といった規則が張り巡らされていて、実は作劇上でも非常に難しくなっています。観るほうはそれほど意識しませんが、全体としては普通のしゃべり言葉よりも歌に近い形になっていることが特徴の一つです。あとで少し朗読も入れます。

 “tragedy(トラジェディ)”という単語は、もともと“tragoidia(トラゴーディア)”というギリシア語で、「ヤギ(トラゴス)の歌」という意味です。悲劇の「悲」である「悲しい」という意味はありません。

 もう一つは、これと対になる「喜劇」と呼ばれている“comedy(コメディ)”です。こちらは“komoidia(コーモーディア)”という単語からきていて、“kome(コーメー)”は、「村、村落」という意味です。こちらも「楽しい」という意味はありません。

 悲劇と喜劇はセットで上演されています。日本語では中身を取って「悲劇」「喜劇」と訳されていますが、必ずしも「悲しい」あるいは「楽しい」という意味ではありません。 そのため、悲劇と呼ばれているものの中には、ハッピーエンドのものもあります。「悲劇じゃないじゃないか」と思うかもしれませんが、今言ったような意味がもとにあるのです。また、悲劇詩人がつくる中には「サテュロス劇」というものもあり、能に対する狂言のような形で、少しコミカルなものもつくっています。それも併せて悲劇とすると、悲しいものには限られないところがあります。

 悲劇と喜劇は両方とも同じ時代に盛んになったものですが、作劇上のいくつかの違いがあります。一番大きな違いは設定です。悲劇は基本的に神話を題材にしており、当時観ている観客からすると、はるか昔のおとぎ話の世界...

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