●アリストファネスによる喜劇『蛙』
これまでソフォクレスの『オイディプス王』という劇を例にして、ギリシア悲劇の特徴を見てきました。最後に少し、それをのちの時代までの影響として現代につなげたいと思います。
ソフォクレスは三大悲劇詩人の中でも、ある意味で代表格ともいえます。しかし、彼よりも年長のアイスキュロス、そして彼よりも歳が若くて少し先に亡くなったエウリピデスという3人がそれぞれ独特の持ち味を持って、先ほどのソフォクレスの『オイディプス王』とはだいぶ違う作風のものを作っています。ギリシア悲劇の中にはその魅力もあります。
これは喜劇ですが、面白い劇なので1つご紹介します。同時代に活躍して、悲劇と喜劇を同じ劇場で、日にちを違えて上演しました。アリストファネスが紀元前405年に上演した『蛙』という劇があります。これは何ともいえず面白い作品ですが、基本的にはアリストファネスはパロディをします。
ちょうど前の年に、ソフォクレスとエウリピデスが立て続けに亡くなりました。3人の悲劇詩人がいなくなり、全盛期が終わってしまったことを嘆きます。神様のデュオニュソスが冥府に赴いて、死んでしまった悲劇詩人を地上に一人戻したいと言います。そして、アイスキュロスとエウリピデスのどちらが優れているのか競争させます。人を馬鹿にしているような、またオマージュのような劇を作っているのです。
これも現在に残っています。どちらが優れているかを競わせて、ギリシア人好みのアゴーン(競争)をやります。2人の論争の結果、アイスキュロスを連れて帰ります。アイスキュロスを連れて帰っている間に、冥府の彼が座っていた椅子にソフォクレスを座らせておくという話です。
このような、三大悲劇詩人が持っていた紀元前5世紀のインパクトを裏側から示すような劇も作られています。ギリシア悲劇はそのあとも少し続くのですが、この3人が築いた、ある意味でものすごく集中した半世紀ぐらいの遺産を超えることがなかなかできませんでした。
そのため、アリストテレスの『詩学』も含めて、それを批評していくようになっていきます。ギリシア悲劇は新作を毎年一回かけると言ましたが、それだけではありませんでした。そのあとに、それをまた地方の劇場で再演することが当然行われました。しかも、台本をどう...