ギリシア悲劇への誘い
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『オイディプス王』にみる「悲劇的アイロニー」の面白さ
ギリシア悲劇への誘い(5)悲劇的アイロニーと反実仮想
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
「トラジック・アイロニー(悲劇的アイロニー)」の構造は、とりわけ『オイディプス王』において完璧に表れている。そのアイロニーの構造は劇中人物が知らないことを観客がすでに知っているということだが、盲目の預言者テイレシアスとオイディプスの「見える・見えない」という関係と掛け合わされたその構造について解説する。(全7話中第5話)
時間:12分35秒
収録日:2021年3月30日
追加日:2022年2月22日
≪全文≫

●観客と演者の視点のギャップが生み出す「トラジック・アイロニー」


 ソフォクレスの『オイディプス王』という劇は、ギリシア悲劇の中でもさまざまな意味で典型的な劇だと思います。それがどういう構造・効果を持っているのかを見る上で今回は、現代において「悲劇的アイロニー」と呼ばれている現象を少し見てみたいと思います。これは英語で “Tragic irony(トラジック・アイロニー)”と呼ばれていますが、現代の言い方で、当時はこういう言い方はありませんでした。

 これはどういうことかというと、劇場の舞台の上で、オイディプスやイオカステ、クレオンなどの人たちを皆で演じています。そして、観客は同じ空間の中で周りからそれを観ています。実は観客の側はストーリーを知っています。つまり、オイディプスが誰の息子なのか、なぜ王様になっているのか、あるいはこれからどうなってしまうのかを、ディテールは多少変えますが、漠然とギリシア神話のストーリーとして知っているのです。

 そのため、オイディプスが出てきた時点で、実は観ている観客の人たちはだいたいどういう状況なのかが分かっているのです。つまり、ゼロから全てを語るのではありません。観客の側がそのストーリーを知っているからです。ところが、舞台の上にいるオイディプスなどの人物からすると、自分たちは当然リアルにやっているので、そのことを知りません。もっというと、何も知らないのです。

 何も知らないものと知っているもののギャップが、「トラジック・アイロニー」と呼ばれているものです。これがある意味、観ていると何ともいえない感情を起こさせます。

 どういうことが起こるかというと、知らない人が知らないまま「ああ、これやったら、まずいよね」ということをどんどんやってしまうのを、観客はハラハラしながら観ているのです。それを当然、計算に入れて劇を作っていますが、これを特に『オイディプス王』では、「見える・見えない」という話と引っかけて展開しているのが面白いところです。

 「私たちは現実を見ている。目の前にあるだろ、これが現実だって分かっているよ」と言っておきながら、実は現実が見えていないのです。自分が結婚している奥さんが、まさか自分のお母さんだなんて誰も思っていません。目が開いているオイディプスは、まさに自分が何者かが分かっていないのです。それが観客からはまさに...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(6)物事の本質を見極めるために
「境地は裏切らない」とは?禅の体験から見えてきたもの
田口佳史
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
人生100年時代の「ライフシフト概論」(3)キャリアの危機〈下〉
40代前半に訪れる「中年の危機」、鍵は「人生の成長戦略」
徳岡晃一郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(6)習近平のレガシー
国力がピークアウトする中国…習近平のレガシーとは?
垂秀夫
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
経験学習を促すリーダーシップ(4)成功を振り返り、強みを伸ばす
なぜ強みが大事なのか?ドラッカー、西田幾多郎の答えは
松尾睦
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留