●文学の最高傑作『オイディプス王』
それでは、ギリシア悲劇の中で、何といっても誰もが代表作と認めるソフォクレスの『オイディプス王』という劇を取り上げて、少しずつテーマを分けながら、ご紹介していきたいと思います。
ギリシア悲劇の作品は現在まで33作品が完全な形で残っています。どれもそれぞれ良さがありますが、やはり衆目一致して「ナンバー1」といわれているのはソフォクレスの『オイディプス王』という劇です。
あらゆる意味で最高傑作で、特に西洋文学の最高傑作という評価もあります。場合によっては、もしかしたら世界文学のトップに入るかもしれない、すごい作品です。ご存じない方はぜひ1回翻訳などでお読みいただきたいと思います。あるいは蜷川幸雄さん演出作品のDVDも出ていますので、観ていただければと思います。
「オイディプス」という名前は聞いたことがあると思いますが、これを英語読みすると「エディプス」です。フロイトが言った「エディプス・コンプレックス」とは、父親に対する息子のコンプレックスのことで、それはわれわれの心に根差しているものです。このフロイトがつけた「エディプス」という有名な名前は、母親をめぐる父親との争いで父親を殺すというこの劇が由来になっています。
オイディプスは名前で、これ(『オイディプス王』)は有名な話ですし非常に面白いのですが、ストーリーを全部紹介するのは大変でネタバレしてしまうので、申し訳ないけれども必要なところだけ少しかいつまんでご紹介します。ミステリー仕立てなところもありますので、詳しくはそれぞれで読んでいただければと思います。
●ホメロスが描いたオイディプスとの違い
さて、オイディプスという名前の人物は、かなり古い時代の人物で『イリアス』や『オッデュセイア』より前にあったギリシア神話に出てきていました。ホメロスの『イリアス』と『オッデュセイア』の中に、このオイディプスについて少し言及されるシーンがあります。ソフォクレスがつくった劇はおそらく紀元前430年頃に制作されて上映されたと推定されています。ギリシア神話の時代から本当に離れた時代に、その設定でつくられた劇なので、実はディテールがかなり変わっているのではないか、さらにいうと、ソフォクレスが変えているのではないかと推測されます。
これについては、さまざまな資料が残っているわけ...