AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
村上春樹が『ノルウェイの森』で描いた不自然な嘘と真意
AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(5)『ノルウェイの森』の嘘とメンタル
與那覇潤(評論家)
村上作品の大ベストセラー小説『ノルウェイの森』。ここでも主人公の「僕」はわざと自分の立場を悪くするような嘘をついているのではないか、と加藤典洋氏は読み解く。これが本当ならば、なぜ村上春樹はそのようなことを描いたのか。AIが行うデータ分析や客観性からは見えてこない「人間ならでは」の分析、文芸評論の神髄について、與那覇氏自身のメンタルに関する体験も交えながら迫る。(全7話中第5話)
時間:14分12秒
収録日:2025年4月10日
追加日:2025年7月23日
≪全文≫

●『ノルウェイの森』で「僕」につかれている嘘


 もう1つは、より有名な、大ベストセラーになりました1987年の作品『ノルウェイの森』です。ここでも、実は語られていないこと、嘘がつかれていることがあるのではないかと加藤典洋さんは読んでいる。

 『ノルウェイの森』は大ベストセラーですからご存じの方も多いと思いますが、ある種の三角関係といった小説になっています。主人公の「僕」には、最初に好きだった人として直子というヒロインがいる。この人は、恐らく精神を病んでいて、サナトリウム的な施設に入っていて、最後は自殺してしまうわけです。そして、だんだん向こうからアプローチしてきて、「僕」を好きになってくれる緑という2人目のヒロインがいる。ある種、三角関係っぽくなるストーリーの小説が、この『ノルウェイの森』です。

 ここで加藤さんは非常に面白いことを言っています。この『ノルウェイの森』において、主人公は大学生なのですが、旅行するシーンが2回ある。1回目は、直子と体の関係を持てたのに、直子が「ごめんなさい、しばらく会えません」といったことで失踪してしまい、そのあとに北陸を旅行していたことがあった、と会話のような形でさらりと書いてある。

 2度目の旅行が、読んだ人には印象に残るシーンです。とにかく直子という最初のヒロインは地方の山の中にある精神病の療養施設に入ってしまうので、それほど簡単には会えないわけです(行って会ったりはしているのですが)。

 簡単には会えない間に、むしろ向こうから自分を好きになってくれる積極的な女の子の緑が現れて、ある意味で不倫関係のようになる。(つまり)三角関係っぽくなる。ところが、直子とはなかなか会えず緑と付き合っているうちに直子は自殺してしまったというニュースが入り、主人公の僕はとても落ち込んで、それこそ髭ぼうぼうの姿になって、今度は山陰地方を放浪するという、非常に有名なシーンがあります。

 作品の中で2回旅行をしているのですが、加藤さんはいろいろな手がかりから、「これも信頼してはいけない物語ではないか。むしろ本当は、旅行は1回しかしていない。直子と付き合っていたのだが直子が自殺してしまった。ショックで1人旅に出た。旅から帰ってきたところ、2人目の緑という女の子と知り合って、その子と付き合い始めた」というのが本当の物語で、この語り手の「僕」は、本当は...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫

人気の講義ランキングTOP10
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦