プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
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時代設定は「紀元前412年春」…実はそこにも深い秘密が
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(3)『ポリテイア』という対話篇〈下〉
哲学と生き方
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
『ポリテイア(国家)』で展開される対話はいつごろの設定なのか。長らく不明のままだったこの点に関して、冒頭部で舞台になっている「祭り」の記述を手がかりに、それを紀元前412年と確定したのは、2000年代前半、納富信留氏と桜井万里子氏(現・東京大学名誉教授)の共同研究によるものだ。プラトンはなぜ、この時期を対話の「時」に設定したのか。執筆された時期と重ねることで、彼の思いを手繰り寄せていく。(全16話中第3話)
時間:12分53秒
収録日:2022年7月8日
追加日:2022年12月1日
≪全文≫

●対話の時期の鍵を握る「祭り」と「ニキアスの平和」


 プラトン『ポリテイア』という対話篇の設定について、お話をしています。前回は登場人物について見てみましたが、対話の設定がいつなのかということについて、少し詳しくお話ししたいと思います。

 前回読んだ冒頭部では、ある祭りに参加したことが舞台になっているとありました。これは歴史上本当にあった話です。おそらくそこで描かれているような素晴らしい行列が行われたと伝えられています。

 この祭りについて、紀元後5世紀の注釈家であるプロクロスや古代の注釈では、「タルゲリオンの月の19日目」だったと記録しています。これはだいたい初夏に当たりますが、月や日にちまで分かっているということは、かなり有名な出来事だったということでしょう。ただ、何年に行われたのかということが、現代ではきちんと分かっていません。日付が分かっているのに年が分からないというのは、ちょっと不思議なことです。

 フィクションとはいえ、プラトンがこれだけ重要な対話をさせた場所がいったい何年のことなのかについて、研究者は論争してきました。19世紀の偉大な文献学者だったアウグスト・ベックという人は、紀元前411年から紀元前410年ぐらいを候補として挙げました。これは、紀元前413年にペリクレスが始め、紀元前404年にアテナイの敗北で終結したペロポネソス戦争の後半部に当たるところです。

 それに対して、20世紀の前半にはA.E.テイラーというイギリスの学者が、紀元前422年から紀元前420年ぐらいではないかという説を出しました。これはちょうど「ニキアスの平和」といわれる時期で、ペロポネソス戦争の真ん中あたりで一時休戦が成り立った平和な時代だったということです。

 どちらも強い根拠はありません。テイラーの説は、みんながこれほどのんびりと議論しているのは平和な時期に違いないという程度の推測です。


●「祭り」が行われた年をめぐる学説の展開


 現代では、もはやこれはほとんど復元できないだろうと思われていましたが、2000年代の前半、東京大学で歴史学を教えていた桜井万里子先生(現・東京大学名誉教授)と私は共同で論文を執筆し、対話の年代を(紀元前)412年春ということで確定しました。この説を唱え、あちこちで発表して、一部の方々からそれでいいのではないかと認めていただいています。これは、いろいろな...

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