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プラトン対話篇にみる5つの特徴

プラトンの哲学を読む(2)対話篇の特徴

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
情報・テキスト
メインキャラクターがソクラテス、舞台はアテナイの日常、使われる言葉も難解ではなく、さながら歴史小説のようで、しかも著者プラトン自身は登場しない。こうしたプラトン対話篇の特徴について、東京大学大学院人文社会系研究科教授の納富信留氏が詳細に解説する。(全6話中第2話)
時間:11:00
収録日:2018/07/11
追加日:2018/10/02
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≪全文≫

●対話篇の設定はソクラテス晩年の時代


 プラトンが書いた対話篇の特徴について述べていきます。

 対話と対話で書かれた形態である対話篇は、実は英語でいうと両方とも「dialogue(ダイアローグ)」となります。直接議論を交わす「対話」は、ギリシャ語で「ディアロゴス」、英語で「ダイアローグ」で、作品として書かれたものもダイアローグです。英語の場合は「a dialogue」とか「dialogues」と数えるような形ですが、両方とも対話、対話篇のことです。

 そういったものをプラトンがなぜ書いたかを考える上で、今から設定について考えていきたいと思います。というのは、対話篇は当然誰かが出てきて誰かと対話するからです。ほとんどの作品で、ソクラテスという人物が誰か特定の人物と出会います。複数の人と出会う場合と、一対一で対話する場合がありますが、そういう状況の中で議論を深めていくと、それが哲学の議論になっていく。その形態が対話篇です。

 ソクラテスが出てくるということでお分かりだと思いますが、これは実はソクラテスが生きている時代、特に晩年の時代に設定されています。つまり、紀元前5世紀の後半から終盤の時代が実際の舞台になっています。


●対話篇の特徴その1:メインキャラクターがソクラテス


 では対話篇のイメージを、5つほど特徴を挙げてお伝えしようと思います。

 1つ目の特徴は、今いいましたように、全てではないですが、ほとんどの対話篇でソクラテスというメインキャラクターが登場することです。

 そのメインキャラクターが誰かと会話するという形態を取ります。その場合、本当にいろいろな設定が可能です。誰も聞いていないような、二人だけの場所で親密な会話を交わすこともあれば、非常に多くの人がいる中など、複数の人とやり取りをすることもあります。場合によっては話者が入れ替わる、ということも生じます。こういうところはプラトンの文学的な才能の見せ所で、作品として非常に楽しめる作品もあれば、非常に密度の高い議論をする作品もあります。そこは、対話篇という、ある意味では共通のツールをさまざまなバリエーションで使い分けていくことになっていきます。


●対話篇の特徴その2:場所・時・語り手の設定と個性的な登場人物


 2つ目の特徴は、今いったような状況を対話篇として表す場合、当然、場所と時、語り手という3つの設定がなされることです。つまり、会話は空中で抽象的になされるわけではなく、何月何日、どこどこで、どういう人となされた、ということが舞台で設定されるのです。これは戯曲の場合でも同じです。

 そもそも、これはいつの時代の話なのか、あるいはどういうシチュエーションであるかが最初に説明されていたり、場合によっては、語り手の話の中で分かるように設定されています。つまり、プラトン対話篇は、紀元前何年頃を設定としているとか、どこで交わされた会話であるとか、そうしたことが1つ1つ分かるように書かれているのです。

 その意味でいうと、歴史小説のような形で読めるのです。しかも出てくる人物たちが一人一人それぞれ個性を持っています。全てではありませんが、その多くが当時とした結構な有名人だった人物です。将軍や外国で活躍していた学者、あるいは学識者、ソフィストといった人たちです。それから、アテナイの中でも結構有名な若者たちも登場しています。ということで、読んでいる人たちにとっては、それこそ一昔前の歴史上の人物を登場させた作品として読めたはずです。

 ソクラテスの相手を務める人も、実はバラエティに富んでいます。ものすごくタフな論争相手としてプロタゴラスやゴルギアスという歴史上のソフィストもいれば、非常に魅力的な美少年のカルミデスやパイドロスといった若者たちと議論することもあります。残念ながらプラトン対話篇の中で直接女性が対話する場面はありませんが、ソクラテスが女性から聞いた話として対話を紹介する場面はあります。つまり、さまざまな語り手を配置することによって、対話篇を豊かに膨らませているということです。


●対話篇の特徴その3:アテナイの日常的な場所が舞台


 場所としては、大体アテナイの街角などを使っています。例えば、運動場競技場(ギムナジウム)で、当時のアテナイの若者たちが主に裸でレスリングや何かの競技の練習をしています。そこは日本でいったらジムです。そこに若者が皆、集うわけですが、そこにソクラテスがやってきて若者をつかまえ、対話を交わすという場面が多く描かれています。あるいは街のどこそこで会いましたといったことで、実際にアテナイのごくごく普通の場所が使われています。つまり、特定の学校の中で行われるような特殊な対話ではなく、日常の場所を使った対話ということです。

 逆にいいますと、そこで人々が生活して...
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