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プラトン対話篇の鍵はソクラテスの理解にある

プラトンの哲学を読む(3)2つの誤解

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科教授
概要・テキスト
ソクラテスは何も書かなかった哲学者である。今日、私たちはプラトンのソクラテス像を通じて彼を理解することも多い。そこで流布してきたのは、本人の発言を忠実に再現しているという説と、プラトンの代弁者という説だ。東京大学大学院人文社会系研究科教授の納富信留氏によれば、これらはいずれも誤解であるというのだ。(全6話中第3話)
時間:10:31
収録日:2018/07/11
追加日:2018/10/03
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≪全文≫

●プラトン哲学について議論する鍵はソクラテスの存在


 前回申し上げた、プラトン対話篇の特徴に、プラトン自身、つまり著者自身が登場しないという戯曲形式の中で哲学が展開される、とりわけソクラテスという主な登場人物が対話相手と一緒に議論するという形式というものがありました。では、そこでは一体何が起こっているのかを考える上で、ソクラテスという登場人物が一体どういう人なのかが鍵になると思います。

 私たちは通常、プラトンの哲学、あるいはプラトン哲学というものを議論していますが、今言ったように私たちに残されたプラトンの作品の中に、プラトンが自分の名前で主張している箇所はありません。つまり、「プラトンはこう考えた」とか、「プラトンがこう主張した」という証拠が私たちには残されていないのです(なお、今回、書簡に関しては脇に置いておきます)。

 そうすると、一体プラトン哲学はどう語ることができるか。そのことが、ここで議論する上で大きな謎となります。これについては、研究者がいろいろと議論していますが、もちろん決定的な解釈はありません。鍵となるのは、ほとんどの対話篇で主役を務めるソクラテスという人物です。ソクラテスはプラトンの先生に当たる人物ですが、なぜプラトンはソクラテスを常に登場人物にしているのか。それを読み解いていくことが、当然この問題を解く鍵になるのです。

 ソクラテスは紀元前469年に生まれたと推定されています。そして、紀元前399年に刑死しているソクラテスが「私は70です」と言っているということで、逆算すれば、確かにそのぐらいの年齢になります。プラトンとは40年ほど歳の差があったことになります。

 また、ソクラテス自身は何も書きませんでした。ここはポイントです。ソクラテスは、常にあちらこちらに出かけて行っては人々と対話を交わしたわけですが、彼は書くということには一切執着しませんでした。むしろそれを意図的に避けた可能性があります。なぜかというと、対話をするというのは、今この場でリアルに人と言葉を交わすことで、それが哲学だということがおそらくソクラテスという人物の姿勢だったと思います。ですから、ソクラテス自身の作品は1つもありませんし、もちろん何も書きませんでした。


●ソクラテスに関する2つの大きな誤解


 では、そのソクラテスがプラトン対話篇に現れているとき、どう扱わ...
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