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プラトンの哲学を読む
対話篇のソクラテスはプラトンの想像による産物
プラトンの哲学を読む(4)ソクラテス対話篇
哲学と生き方
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
プラトンの描くソクラテスは何者なのか。東京大学大学院人文社会系研究科教授の納富信留氏は、当時ソクラテスを描く対話篇が多く書かれたことを挙げ、複数のソクラテス像が存在したと述べる。その中で、プラトンは際立ったソクラテス像を提示したのだ。(全6話中第4話)
時間:10分56秒
収録日:2018年7月11日
追加日:2018年10月4日
収録日:2018年7月11日
追加日:2018年10月4日
≪全文≫
●対話篇のソクラテスは、プラトンの想像による産物
プラトンが書いた対話篇を読み解く作業として、前回はソクラテスという人物がメインキャラクターとして登場し対話を導いている意味は何なのかを考え始めました。プラトンが実際にお世話になったソクラテスという実在の先生が語っていることは、必ずしもソクラテスの歴史的な発言そのままではないでしょうし、プラトンの代弁というわけでもないでしょう。だとすると、ソクラテスとは何者だろうか。そのことを考え始めたということです。
1つの見通しとしては、プラトンがソクラテスという人物との対話を借りながら、ソクラテスだったらどういうことを考えるのだろう、あるいはソクラテスだったらこういう質問に対してどう答えるのだろうと、いわば死んだソクラテスのことを自分の中で想像しながら作っているというものです。
その意味でいうと、プラトンは、もしかしたらソクラテス本人というよりソクラテスの対話相手の方のポジションに近い形で書いていると読み解くことが、1つの可能性としてあるのではないかと思っています。
●プラトン対話篇の歴史的背景としてのソクラテス裁判
それをさらに検討する上で、ソクラテスを登場させる対話篇とは結局、何だったのかということを歴史的に説明する必要があります。
ソクラテスはなぜ紀元前399年に処刑されたのでしょう。彼は神を敬わない、若者を堕落させるという罪に問われて、アテナイの裁判で正式な手続きを経て評決され、死刑になったわけですが、そういった人物をなぜ登場させて作品を書くのでしょうか。
プラトンの全ての作品が基本的にソクラテスの死後に書かれている前提で私はお話ししていますが、その問題をまずはじめから考えていきます。ソクラテスはなぜ告発されたのか。これはこれで非常に大きな問題ですが、基本的に、神を敬わないという罪は、反社会的な扇動活動をしているという罪だとご理解ください。つまり、宗教裁判という狭い意味というよりは、むしろ反社会的なイデオロギーを唱えているということです。
ソクラテスは、反社会的なイデオロギーを自分で持ちながら、若い人たちに吹き込んでいるということで告発されて、死刑になってしまったというのが、紀元前399年の事件の大枠です。その時、親しく付き合っていた人物で、実際にソクラテスの教えを受けたという二人の(若...
●対話篇のソクラテスは、プラトンの想像による産物
プラトンが書いた対話篇を読み解く作業として、前回はソクラテスという人物がメインキャラクターとして登場し対話を導いている意味は何なのかを考え始めました。プラトンが実際にお世話になったソクラテスという実在の先生が語っていることは、必ずしもソクラテスの歴史的な発言そのままではないでしょうし、プラトンの代弁というわけでもないでしょう。だとすると、ソクラテスとは何者だろうか。そのことを考え始めたということです。
1つの見通しとしては、プラトンがソクラテスという人物との対話を借りながら、ソクラテスだったらどういうことを考えるのだろう、あるいはソクラテスだったらこういう質問に対してどう答えるのだろうと、いわば死んだソクラテスのことを自分の中で想像しながら作っているというものです。
その意味でいうと、プラトンは、もしかしたらソクラテス本人というよりソクラテスの対話相手の方のポジションに近い形で書いていると読み解くことが、1つの可能性としてあるのではないかと思っています。
●プラトン対話篇の歴史的背景としてのソクラテス裁判
それをさらに検討する上で、ソクラテスを登場させる対話篇とは結局、何だったのかということを歴史的に説明する必要があります。
ソクラテスはなぜ紀元前399年に処刑されたのでしょう。彼は神を敬わない、若者を堕落させるという罪に問われて、アテナイの裁判で正式な手続きを経て評決され、死刑になったわけですが、そういった人物をなぜ登場させて作品を書くのでしょうか。
プラトンの全ての作品が基本的にソクラテスの死後に書かれている前提で私はお話ししていますが、その問題をまずはじめから考えていきます。ソクラテスはなぜ告発されたのか。これはこれで非常に大きな問題ですが、基本的に、神を敬わないという罪は、反社会的な扇動活動をしているという罪だとご理解ください。つまり、宗教裁判という狭い意味というよりは、むしろ反社会的なイデオロギーを唱えているということです。
ソクラテスは、反社会的なイデオロギーを自分で持ちながら、若い人たちに吹き込んでいるということで告発されて、死刑になってしまったというのが、紀元前399年の事件の大枠です。その時、親しく付き合っていた人物で、実際にソクラテスの教えを受けたという二人の(若...