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ソクラテスはいかにして対話相手に不知を自覚させたか?

プラトンの哲学を読む(5)対話篇を読む私たち

納富信留
東京大学大学院人文社会系研究科 研究科長・学部長・教授
概要・テキスト
ソクラテスの議論には特徴的な方法がある。正義とは何か、というように、主題を直接ズバッと聞くことだ。そして、ソクラテスは相手を論駁し、不知を自覚させる。東京大学大学院人文社会系研究科教授の納富信留氏は、この議論の方法によって、現代の私たちが対話篇を読むとき、私たちもまた問われ、不知を自覚させられるという。(全6話中第5話)
時間:11:31
収録日:2018/07/11
追加日:2018/10/05
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≪全文≫

●ソクラテスは、常に対話を交わしながら何も書かなかった


 プラトン対話篇の説明をしてきましたが、今度はプラトンがそのようにして仕上げた作品を、私たちが読むという行為が、一体どういうことなのかを考えていきたいと思います。

 対話篇は、その中にソクラテスが主に登場人物として出てきて、一人ないしは複数の対話相手と丁々発止の議論を繰り広げるという形式だということを、前回まで説明してきました。ここで、面白い問題として取り上げたいのは、ソクラテスとプラトンという二人の人物についてです。

 ソクラテスは、常に対話を交わしながら何も書かなかった人物です。一方、プラトンは、死んでしまったソクラテスをある意味で想像しながら対話篇を書いた人物です。私たちに残された対話篇は書かれた対話ということで、少し不思議な感じがするかもしれません。つまり、対話とは話しながら進行するわけですが、対話篇はそれが書かれたものということで、ある意味そこに秘密があるわけです。

 これを読み解いていきたいと思いますが、まずソクラテスは何をしたかをもう一度見てみましょう。ソクラテスが何をしたかというのは、書かれた対話篇を読みながら、そこに出てくるソクラテスが相手と何をしているかの確認です。


●「○○とは何か」という疑問から始まるソクラテスの議論


 ソクラテスはたまたま出会った相手と、そのときに特定の話題について議論をしていきます。対話はおしゃべりとは違います。もっといえば、普通の会話という意味とも違います。ソクラテスはもちろん、最初は会話から始めるわけですが、ある特定の主題について一緒に議論をしようと話していきます。例えば、正義について、あるいは勇気について、そういったものを主題にして、議論をしていきます。これを対話として、少し狭く考えていきたいと思います。

 ある主題について議論する場合、ソクラテスは導入部を過ぎたところから対話相手に、「○○とは何か」という聞き方をします。例えば、「正義とは何だと思いますか」、あるいは「勇気とは何だと思いますか」という問いです。英語だと「what is」となりますが、ギリシャ語で「ti esti」といいます。私たちは「ti esti question」と呼んでいるのですが、「それは何ですか」という問いです。「何ですか」というのは、結構びっくりするような問いで、正しさについて議論をする場合...
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