プラトン『ポリテイア(国家)』を読む
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
エルの物語…臨死体験から考える「どういう人生を選ぶか」
プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(16)エルのミュートス(物語)
納富信留(東京大学大学院人文社会系研究科教授)
ソクラテスが『ポリテイア』全10巻の最後に語るのは「エルのミュートス(物語)」である。戦場で亡くなり12日後に蘇生したパンピュリア族の勇士「エル」は、死後の魂の旅路として2つのコースがあることを知る。100年の人生の死後に千年の旅があり、魂は再び次の人生を選んで全てが忘却される。そうして新しい運命に向かうのだが、そこには非常に大事な教訓が込められている。最終話では、このいわば臨死体験のような物語について解説して、歴史上最大の哲学書『ポリテイア』を締めくくる。(全16話中第16話)
時間:15分09秒
収録日:2022年9月27日
追加日:2023年3月31日
≪全文≫

●魂の見地で考える正義や徳への報酬


 『ポリテイア』第10巻は補遺・まとめのような議論ですが、「詩人追放論」に続いて、「正義や徳への報酬」という議論が挟まります。第2巻におけるグラウコンの問題提起で思い出していただきたいのですが、正義であること、正しいことというのはいったいどういうことなのか。それ自体として善いことなのか、結果として善いことなのか、それともその両方なのかということに対して、ソクラテスは「両方だ」と答えたのでした。

 今までの議論は、実は「それ自体として善い」ということに対する回答でした。つまり、正しい人は結果が得られなくても、あるいは報酬をもらわなくても、それ自体で選ぶべきだということを証明したのです。残りは、「でも、ご褒美もくるよ」というおまけのような話です。

 そのご褒美というのは結局、神が人間の面倒をちゃんと見てくれるという話なので、やや付け足しのように見えます。しかし、ソクラテス的にいうと、正義というのは、人間が完璧に報われるものなのだということを証明したいのです。

 特に魂というものは単に生きている間だけで終わってしまうのではなく、未来永劫続くものである。魂を不死だとしたら、人生の時間はわずかなものでしかない。この生きている時間に、欲望をフル回転させて人の財産を奪うような話と、自分が正しいやり方をするという話では、果たして長いスパンで比べたら、何か違うように見えてきますよねということを言ってきます。

 そこで、魂とは結局どういうものかという話に再度戻ってくるわけで、一旦は「魂の三部分説」を唱えたのですが、やはり本当の魂は理知的な部分だという話になります。ただ、その部分は、通常はいろいろなものに覆われて見えなくなっている。現実の悪によって、フジツボやワカメがいっぱいついた海神(グラウコス)のような状態になっているという話をしていきます。

 ただし神は正しい人と不正な人を見ているから、結局は正しい人は報われるのだということを付け加えています。プラトン自身は人間と神という問題をずっと考えていて、人間の中でできることと、それに対して神がもっと大きな視点から配分してくれることを見ているので、これはとどめのような結論になっているわけです。


●『ポリテイア』全10巻の最後に語られる「エルのミュートス(物語)」


 さて、それに続く最後...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(1)古き良きキリスト教社会
古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
渡部玄一
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
編集部ラジオ2025(30)西野精治先生に学ぶ「熟睡の習慣」
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
プロジェクトマネジメントの基本(3)プロジェクトのすすめ方
PDCAサイクルを回すための5つのプロセスとそのすすめ方
大塚有希子
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎