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バンガロールが「世界のIT基地」としてインドの発展を牽引

躍進するインドIT産業の可能性と課題(2)国際的影響力の拡大

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
近年目覚ましい経済発展を見せるインドは、国際政治などの分野でも急速にプレゼンスを拡大している。安保理常任理事国入りを目指す動きや、火星探査機の打ち上げ成功、ミサイル発射実験の成功など、近年のインドの動きは国際的に無視できないものとなってきている。こうした変化は、インドのIT産業の発展の結果であることは厳然たる事実である。急速に発展するインドを指導するモディ首相の政治的スタンスは、伝統的な国民会議派のスタンスとは異なるという点も、押さえるべきポイントである。(全9話中第2話)
時間:10:29
収録日:2020/04/07
追加日:2020/06/12
カテゴリー:
≪全文≫

●経済の目覚ましい発展に付随して国際政治でのプレゼンスを急速に高めるインド


 IT産業などの急速な発展で、経済的に非常に大きな可能性のある国として、近年インドは存在感を高めてきています。その大きな可能性に着目して、世界の多くの企業が、インドに生産や開発拠点を設けるという流れが加速しています。さらにその他にも、国際政治面や宇宙航空技術、軍事面といった、特殊な技術の分野に関しても、近年インドは存在感を大変高めています。

 インドはネルー首相が指揮した独立以来、1980年ごろまでは非同盟主義を維持していました。非同盟主義とは簡単にいうと、アメリカと距離を取るということです。1990年代以降、経済開放を進め、国際経済競争に参加して、アメリカとも接近するようになってきました。そのような状況の中で、モディ政権は政治的にも国際的な存在感を高めているのです。インドはG20の主要メンバーであり、国連の安全保障会議で常任理事国入りを目指しているG4という国々に、日本・ドイツ・ブラジルと並んで名を連ねています。

 また、2013年にインドは火星探査機「マンガルヤーン」の打ち上げに成功しました。これはインドの探査機の打ち上げとしては初の試みでした。にもかかわらず、火星の周回軌道に入ることに成功したのです。これは日本でも、まだ成功していません。日本の火星探査機は、周回軌道に入る前にどこかで姿を消してしまっているのです。

 さらに、2012年には5000キロから5800キロ射程のICBM「アグニV」の発射に成功しています。これは大変な広域攻撃能力を持っていることを示しています。2015年10月には、インド海軍が新たな海洋安全保障戦略を発表し、インド洋全域、ペルシャ湾、紅海を最重要区域に指定しました。この動きには、世界中から注目が集まっています。また、翌年の2016年には、インド軍は、初の国際原子力潜水艦「アリハント」を就役させています。

 2020年2月にドナルド・トランプ大統領は、モディ首相の招きでインドを訪問しました。モディ首相は10万人の聴衆を用意しました。コロナウィルスの流行が話題になり始めた時期でしたが、インドではまだ流行していなかったといわれています。トランプ大統領は、その大会場で上機嫌で、「America loves India. America respects India」などと発言していました。その後の首脳会談では、アメリカは武器輸出に関して合意しました。インドは世界最大の武器輸入国なのです。しかし、高関税の問題や5G問題に関しては、合意にいたりませんでした。インドは非常にしたたかな国です。

 インドには大変な可能性があることは、周知のところなのですが、インドの経済発展の経緯を回顧すると、中国より約15年遅れて、中国の明日を追っていると専門家は見ています。

 例えば、1960年ごろの中国の経済規模は微々たるものでした。2002年に2兆ドルの経済規模となり、2010年には4兆ドルを超えて日本をはるかに上回りました。15年後には、インドが現在の中国になる可能性があります。ちなみに、現在の中国の経済規模は、日本の2.5倍の規模です。

 インドの強みは人口ボーナスです。つまり人口構成として若年層が多く、約13億人の人口の半分が25歳以下です。6億人以上がこれから40年間労働力として経済活動に貢献できるのです。国連の予測では、2022年にはインドの人口は中国を抜き世界一になるだろうということです。若年層が多いために、出生率も高くなるのです。こうした傾向が人口ボーナスと呼ばれるもので、経済成長に影響を与える可能性があるのです。

 そのような可能性を秘めたインドを牽引しているのはIT産業です。IT産業には大規模な設備投資が不要です。また、2010年以降インドではスマートフォン人口が爆発的に増えて、数億人となりました。その結果、膨大な情報が蓄積されています。この情報をビッグデータとして活用した新事業が、急速に芽吹いてくるという経過なのです。

 このようなインドをモディ首相が代表して引っ張っているのです。


●バンガロールの発展がインドのIT産業を牽引している


 さて、皆さんと一緒に、世界のIT基地といわれるバンガロールについてもう少し詳しく考えてみましょう。バンガロールを中核として発展したIT産業が、全国に急速に伝播しているのです。

 バンガロールは1990年代から、インドのIT産業の中心地として発展しました。前回も指摘しましたが、インドには英語話者が多く、アメリカ人と意思疎通しやすい上、人件費が非常に安いにもかかわらず、多くの優秀な人材がいます。さらに、13.5時間の時差があり、アメリカの夜中にインドで作業して、翌日には製品を届けるという仕組みで、下請け基地として大発展したわけです。ところが、注文された仕事を次々とこなしていくうちに、やがて下請けではなくなり、徐々...
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