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インドは世界の指導国となる資格はあるか

躍進するインドIT産業の可能性と課題(7)三大大国への道

島田晴雄
東京都公立大学法人理事長/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
ネルーが確立した非同盟主義と社会主義計画経済は、時代の流れの中で見直されることとなった。ソ連解体と冷戦崩壊がその流れを加速させ、1990年代以降高い経済成長率を維持する経済大国としての地位を固めてきた。その人口構造ゆえに、アメリカ、中国に次ぐ大国に成長できる可能性はあるが、ムスリムを取り巻く国内の民族・宗教対立やパキスタンとの関係など、問題は山積している。(全8話中第7話)
時間:09:29
収録日:2020/04/07
追加日:2020/07/17
キーワード:
≪全文≫

●ネルー以来の非同盟主義と社会主義計画経済の方針を転換したインド


 インドはネルー首相以降の非同盟主義と社会主義計画経済という2つの原則から、大きく舵を切り始めました。

 非同盟主義に関しては、中国の周恩来と協力体制を築いていたのですが、中国のチベット侵攻によるダライ・ラマ14世の亡命を経て、関係が悪化しました。その後、カシミール地方への中国軍の侵攻によって、国境をめぐる軍事紛争となり、インド軍はここで大敗北しました。この前線は現在でも中国が実効支配しています。ネルー首相とインド国民は、毛沢東に期待していましたが、大変な裏切りに遭ったということで、今日でも中国はインドの仮想敵国です。バジパイ元首相の原爆実験は、パキスタンよりもむしろ中国の存在を意識していたといわれています。

 また、ネルーの死後も外交・軍事両面で長くソ連を重視していましたが、ソ連が崩壊して冷戦が終結すると、徐々にアメリカとの連携に軸足を移していきました。アメリカ側もインド洋での影響力を持ちたかったために、共同軍事演習なども行うようになりました。ついには、2006年にブッシュ政権下で、アメリカはインドと原子力協定に合意し、インドを核兵器保有国として認めました。これまでのような制裁対象としてではなく、経済・軍事両面でパートナーとして扱うようになり、インドの対米傾斜が強化されて今日に至っているのです。その結果、安倍政権もインドと接近できるようになったという経緯があります。

 次に、社会主義的計画経済から、経済解放と自由経済を志向するようになりました。そのきっかけとなったのは、1991年にインドを襲った経済危機です。インドの保有外貨が底をつき、債務不履行寸前にまで至りました。湾岸戦争の結果、石油価格が跳ね上がり、石油資源を持たないインド経済を直撃したのです。さらに、中東に出稼ぎに出ているインド人からの本国への送金も減ってしまったために、国内は大混乱に陥りました。

 当時財務大臣を務めており、後に首相を務めたマンモハン・シンは、これまでの共産主義的な許認可制度を撤廃し、民間の参入を大幅拡大するという自由化政策を取るなど、大胆な改革を断行しました。このように、社会主義だった国が市場原理を取るようになったので、海外企業がインドに殺到しました。その結果、インドの財閥が衰退するかと思われましたが、昔から存在していたタタ財閥だけではなく、リライアンス財閥やアダニ財閥などの新興財閥によって、インドは経済国家として目覚ましい成長を遂げたのです。

 このとき、IMF(国際通貨基金)から融資を取り付けました。IMFは融資の見返りとして、厳しい構造改革プログラムを義務付けます。しかし、その改革プログラムの中身は、経済の開放を求めるものだったので、インドではそのプログラムが改革に役立ったのです。

 このようにして、1991年頃には1パーセントに満たなかったこともあるGDP成長率が、90年代半ばには年率6~7パーセントとなり、その後も高い成長率を維持する国となりました。


●インドの大国化に対し国際社会が懸念するのは内部の宗教対立


 さて、冒頭でも申し上げましたが、インドにはアメリカ、中国と並ぶ世界三大大国になる可能性があります。その最大の原因は、人口が約13億人と大規模で、さらにその中に占める若者の比率が大きいことです。経済成長の最大の原因は人口なので、多くの人がある程度の所得を生む製造業基盤を構築できれば、本当に強力な大国となる可能性があります。

 しかし、たしかにインドではGDPの成長が見られていますが、同時に国内に地域格差、民族格差、民族の対立、宗教対立、言語格差などさまざまな問題を抱えています。これらの問題は構造問題なので、GDPが増えたとしても簡単に解消する問題ではありません。したがって、この大きな国はそれなりのリーダーシップを期待されると思いますが、インドが世界の大国にふさわしいリーダーシップを発揮できるかどうかは、国際的な信頼を高められるかどうかにかかっていると思うのです。もしインドの人々がそうした野望を持っているのであれば、今から迅速に準備する必要があると思います。インドが大国となる可能性があるかどうか、最後にさまざまな観点から検討したいと思います。

 国際社会がインドに関して懸念しているのは、内部の宗教対立だと思います。モディ首相は、ネルーが築いた政教分離のセキュラリズムという国民会議派の伝統を、完全に否定しています。民族奉仕団(RSS)出身という背景もあるでしょうが、ヒンドゥー至上主義を掲げて、ますますそれを強調している側面があります。

 この宗教問題は、インドとパキスタンの対立の原因です。近年、カシミール問題が再燃してきて、世界の関心を集めています。カシミールはインド、パキス...
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