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ヒンドゥー教とイスラム教の対立が激しいインドの宗教的多様性

躍進するインドIT産業の可能性と課題(4)インドの多様性

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
インドは、日本とは比較にならないほど多様な国である。多様性という面では宗教もその一つだが、中でもヒンドゥー教とイスラム教の対立は、1947年インド独立の際に大変な悲劇を引き起こし、その後、ガンジーの暗殺など、深刻な宗教問題となっている。また、多様性ゆえの問題として、巨大な経済格差やカースト制度も存在している。こうしたインドの多様性を理解することが、インドとの関係を考える上で重要である。(全9話中第4話)
時間:09:58
収録日:2020/04/07
追加日:2020/06/26
カテゴリー:
≪全文≫

●ヒンドゥー教徒が8割だが、宗教は非常に多様


 モディ首相は、宗教関連で手痛い目に遭っていますが、選挙ではまた勝利しました。彼は、宗教関連で評判を落としながらも選挙に勝利した事実に、ある種の自信を得たのではないかと思われます。つまり、さまざまな宗教それぞれに配慮するのではなく、人口の8割を占めているヒンドゥー教徒の強力な支持を得れば、選挙で勝利できるという確信を得たのではないかと思うのです。

 そして2019年には、国籍法改正を強硬に主張し始めました。2014年の末までにインドに不法入国したバングラデシュ、アフガニスタン、パキスタンの3カ国の出身者のうち、ヒンドゥー教、キリスト教仏教などの6宗教の信者は、インド国籍を与えられます。一方、イスラム教徒は対象外とされ、書類を提出しなければなりません。しかし、書類を準備できる人は少ないのです。それゆえ、大規模なデモが起きています。ということで、強烈なヒンドゥー至上主義者です。

 インドは非常に多様な国で、インド人に聞いても誰もが非常に多様な国だと答えます。まず民族からしても、顔を見るとインド人らしい人、黒人のような人、東南アジア系のような人などさまざまな人がいて、本当に多くの民族から成り立っているのです。

 また、宗教も非常に多様です。ヒンドゥー教徒が多く、8割を占めますが、その他にも数十の宗教の信者がいます。細かく分類すると、2000程度の宗教があるのだそうです。


●ヒンドゥー教とイスラム教の対立が示すインドの宗教問題の深刻さ


 この宗教の多様性が実は政治に非常に影響しています。皆さんもよくご存じの無抵抗運動のマハトマ・ガンジーは、インドのイギリス植民地からの独立を指導したといわれています。ガンジーはある種の理想主義者で、インドにはさまざまな宗教があるが、それらを全て包摂した国家として独立したいと望んでいました。「Integration of Diversity(多様性の統合)」ということで、多様性を包摂し統一すると主張していました。

 しかし現実はうまくいきませんでした。ヒンドゥー教とイスラム教の激しい対立は、1947年にインドが独立する際に、大変な事態を引き起こしました。今のインドとパキスタン、バングラデシュは、生木を裂くように切り裂かれたのです。パキスタンもバングラデシュもイスラム教徒が多いのですが、これは、私見ではイギリス植民地政策の最後の悪巧みです。イギリス植民地政策がこの宗教の多様性を利用して、生木を裂いたと思っています。その結果、何百万人規模で人が亡くなるという深刻な事態を引き起こしているのです。

 そうした悲劇を繰り返さないように、ネルー首相が率いる国民会議派は、セキュラリズム(世俗主義)に則った厳格な政教分離を憲法に定めました。これは、ヒンドゥー教とイスラム教の対立を政治に持ち込まないための知恵だったのです。しかし、その後も対立は続き、結局マハトマ・ガンジーはヒンドゥー教徒に暗殺されました。ネルー首相の娘であるインディラ・ガンジーも大変強力な首相でしたが、シーク教徒に暗殺されています。そして彼女の息子のラジブ・ガンディー首相はタミル人に暗殺されました。こうした事実からも、インドの宗教問題の深刻さが分かります。

 こうした状況に対して、モディ首相は非常に明快な立場で、ヒンドゥー教至上主義政策を強力に進めています。


●ヒンドゥー語を話す人は40%以上、英語を流暢に話せる人は非常に少ない


 言語も非常に多様です。第一言語としてヒンドゥー語を話す人は40数パーセントと一番多く、ベンガル語は8パーセントで、その他にもさまざまな言語が用いられています。インドでは各州が正式に認めている言語があるのですが、合計して22種あります。正式に制度化されていませんが、人びとが普通に話しているという言語を含めると1800から2000も存在するといわれているのです。

 インドは英語を話すからいいと、よくいわれます。しかし、実際に英語はどの程度の人が話しているのでしょうか。英語を第一言語とする人は、国勢調査では0.02パーセントで、23万人にすぎません。ですので、実際には英語を第一言語とする人はほとんどいないのです。第二、第三言語として、英語を用いる人を含めても、人口の10パーセント強、約1.2億人程度で、このうち流暢に話せるのは4パーセント前後だそうです。

 ただ、英語は司法・立法・行政・ビジネスの世界ではエリートの共通語です。司法の世界では、最高裁判所の審理と判決は英語で行うと憲法で規定されています。したがって、子どもを出世させようと思う家庭では、英語教育の学校に通わせるのがブームなのだそうです。こうした学校の多くは私立です。公立の学校では先生が足りず、英語教育が十分に受けられないそうです。私立で英語教育を受けている子ど...
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