●DEIの日本的展開と人的資本経営
今回は改めて、DEIと企業経営の関係について立ち返ってみたいと思います。
DEIというと、とにかく「差別をしてはいけない」「多様性をとるという国連の開発目標に沿っていかなければいけない」という観点のみ(が強調されます)。場合によってはコンプライアンス、CSR、ESG(環境・社会・ガバナンス)の関係で捉える見方もあります。しかし、私はDEIを現在の日本企業が大切にしている人材戦略と密接に関係があると思っています。
例えば、今「人的資本経営」が大事だということで、多くの企業が取り組んでいます。これは簡単にいえば、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出していこう、それが企業価値の向上につながるという考え方になっています。
これを今、経産省が推進していて、例えば5つの共通要素というものを打ち出しています。この中には「動的な人材ポートフォリオ」(を組む。まさに多様性を組んでいくこと)、「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」(これもダイレクトに入っています)、「リスキリング・学び直し」(で、従業員の能力を高めていきましょう、これはやはりエクイティのところに関係してくるのではないかと思います)、「従業員エンゲージメント」(を高めていきましょう)、「(多様な)時間や場所にとらわれない働き方」(をしていきましょう)というようなことで、人的資本経営とDEIはかなり近い関係にあると思います。
先ほど見たように、多様性の中でも特に認知的多様性を高める、公正性のもとで多様な人材を育成して、登用していく、そして活用していく、ということは、人的資本経営だけではなく、健康経営やウェルビーイング経営、あるいは働き方改革などと非常に親和的です。そのことを考えると、アメリカの政策が変わったからといって、日本企業にとってのDEIの重要性はまったく変わらないと考えていいと思います。
●ウェルビーイングとDEIをつなぐ価値の多様化
また、近年注目されているウェルビーイングとの関係に関しても、DEIというものはとても大事だと思っています。ウェルビーイングはいろいろな使われ方がされていますし、学問領域によっても定義はまちまちにな...