●目標達成に向けて、まず行動と環境の関係性で考える
皆さん取り組まれることが多いと思うのですが、お正月にその年の目標を立てたりしますね。例えば、仕事で今年こそ英会話を学ぼうとか、今年こそ健康のためにダイエットをしようとか、そのために毎日ジョギングをしようなどと決めて、実際に始めるのだけれども三日坊主になってしまうということがよくあると思います。これについてお話をしましょう。
年の初めに(別に年の初めでなくてもいいのですが)、自分はこうありたいとかこういうことがしたい、こういうことができたらいいな、といった願いを立てるというのは、どういうことかと考えてみます。それは行動することによって、何か長期的なメリットがあるということだと思うのです。
上記のダイエットを例にすると、特にお正月だとまだ寒いですね。寒い中、外に出てジョギングをするというのは短期的には、震えるような寒さであったり、疲れてしまったり、その間は家でぬくぬくできなかったりといった状況に陥ります。行動分析学で行うABC分析でいうと、服を着替えて外に出て走り始めるというだけでも、まず服を着替えなければいけません。それから寒い外に出なければいけません。走り始めたら息があがって疲れてきます。このように、行動を強化しない、いろいろな要因がたくさん出てくるので、それによって行動が自発されなくなるというのは、実は自明の理なのです。
ですから、そういう環境でなかなかジョギングに出かけないというのは、個人攻撃の罠にはまって自分を責めてもあまり意味がないわけです。どうしてかというと、それはその人にやる気がないからではなく、しっかりした意志の力がないからでもなく、環境がそうだからです。なので、まずは行動と環境の関係性から、なぜジョギングに行かないのかということを冷静に考えてみるというのが、まず1つあると思います。
●言語があるから長期的な目標の達成に向かえる
もう1つは、この点が多分、人間と動物の大きな違いになると思うのですが、動物は行動した直後の結果には強く影響されるのに対して、長期的な結果には影響されにくいのです。特に1年かけて成就したい目標とか、5年や10年かけて成就したい目標を達成できる生物というのは、人間しかいないと考えられています。なぜならば、人間には言葉があるからなのです。ですから、例えば、寒い時期につらいけれども毎日ジョギングをしていれば1カ月後には体重が減るだろうとか、実は私も今チャレンジしているのですが、悪玉コレステロールが減って病気になるリスクを減らすことができるのではないだろうか、などということを考えられるのは、言語という行動のレパートリーがあるからなのです。
ただ、言葉があれば、その通りに長期的な目標に従って行動できるようになるかというと、また、ここにも落とし穴があります。どういう落とし穴があるかということは、行動分析学の研究によってかなり分かってきています。では、その落とし穴は2つあるのですが、その2つについて、お話ししたいと思います。
●落とし穴1:「ちりも積もれば山となる型」
1つは「ちりも積もれば山となる型」と私は呼んでいるのですが、行動と環境との関係性が累積的なものです。例えば、ジョギングで10分走ったらその10分で体重が5キロ落ちるとか、あるいは10分走れば悪玉コレステロールががーんと減るとか、結果がすぐに目に見えて分かるというのであれば、おそらく誰もジョギングできないという問題を抱えることはないと思います。
ところが、10分走っただけでは体重はそう簡単には減らないし、コレステロールの値も変わりません。しかし、この随伴性をABC分析してみて分かることは、10分、15分、あるいは30分走ることを毎日続けて、1週間、2週間、3週間、さらに2カ月、3カ月と続けると、体重やコレステロールの値が大きく変わってくる、つまり長期的な結果と1回1回の行動が累積的な関係にあるということです。それが「ちりも積もれば山となる」という言い方にしているゆえんなのです。
この場合は、その関係性を言葉でいうことができても、言い換えると行動と環境の関係性が頭で分かっていてもそれだけでは行動に変容が起きない要因の1つにすぎない、ということです。ダイエットもそうですし、勉強もそうですね。東京五輪も近づいていますし、外国からお客さんが来たときに英語が話せるといいなと思う。あるいは、海外の映画やドラマが好きな人は、字幕なしで見ることができるといいなと思うかもしれません。これも1回30分くらい勉強すれば、すぐできるようになるのであれば、皆さん間違いなく勉強するようになると思いますが、やはり毎日繰り返し繰り返しかなりの期間にわたって練習をしないと、できるようになりません。そういう場合は、...