●環境・社会・ガバナンスという要素から進める「ESG投資」
―― 皆さま、こんにちは。本日は夫馬賢治先生にESG投資についてお話を伺ってまいりたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いいたします。
夫馬 よろしくお願いします。
―― 夫馬先生は講談社+α新書さんから『超入門カーボンニュートラル』と『ESG思考』を出版されています。こちらでだいぶESG投資のお話などもお書きになっています。また、中小企業の実例として別の講義でもご紹介していますけれど、『武器としてのカーボンニュートラル経営』(ビジネス社)も出しておられます。
さて、ESG投資は最近聞くことが多くなってきましたが、なんだろうという方も結構多いのではないかと思います。ESG投資とはどういうものなのですか。
夫馬 まず(ESGという)言葉について、ESGという横文字がピンとこない方もまだまだいらっしゃると思うのですが、Eは「Environment(環境)」のEです。Sは「Social(社会)」のSです。そしてGは「Governance(ガバナンス。日本では企業統治とも訳されます)」のGです。環境、社会、ガバナンスの頭文字を取ってESGという言葉が、世界的に確立しているのです。環境・社会・ガバナンスという要素から、収益性の高い企業を見定めていく。これがESG投資といわれる投資手法ですね。
―― 普通に考えると、なぜESGが投資効率を上げるのか、なかなか難しいと思うのですが…。
夫馬 そうですよね。
―― そのあたりについては、後ほどお話を伺っていきます。
●環境問題に「脱成長が解決策になる」という話はない
―― 先生が著書『超入門カーボンニュートラル』で本質論から迫って、「資本主義がそもそも環境に悪なのか」という問題提起をされているのですが、最近ですと例えば、「人新世(じんしんせい)」ということがいわれています。人類が地球の環境に莫大な影響を与えてしまっているような時代になったときには、もはや資本主義ではダメなのではないか。コミュニズム的といいますか、共産主義的な、別の経済体制がなければダメなのではないかという主張もかなり出されるようになってきました。けれど、そうでもないのではないのかというのが、先生が言っていることですね。これはどういうメッセージですか。
夫馬 まず気候変動の例を取っても、世界的な課題が多くなっています。これは間違いない事実なのですね。もう調べれば調べるほど、証拠は山のように出てきますし、日本語だけでなく英語の情報まで取りにいくと、そのことが当たり前にファクトとして受け止められています。
今、学会の中心にいるような科学者の中で気候変動を否定する方はいません。そして、この気候変動が人為的な、人間社会が生み出した温室効果が原因だということも、もう疑う余地がないところまできています。なので、この課題は明確にあるのです。
では、この対策としてどういう形が望ましいのか、ということです。今おっしゃっていただいたように、一つの考え方としては、これが経済成長によってもたらされたということ。もっとシンプルにいうと、産業革命によってもたらされたのが、この大きな温室効果ガス排出(という考え方)です。典型例が石炭燃料や石油、そしてガスです。多くのものをつくり出してきた工場から出ているものもあります。モビリティが発達しました。自動車、船、飛行機はどうかというと、これらも全て産業革命から爆発的な排出が増えていきました。ですので、一つの考え方としては、「では元に戻ろう」という考え方があります。私たちは産業革命の時代から今を迎えてしまいましたけれど、産業革命が起こる前の時代に戻れば、この気候変動を止められるのではないのか。そのようなことが、「脱成長」という一つのシンボリックな思想として語られていたりします。
けれど、実際に気候変動に関して、多くの国際会議を主催している国連の国連環境計画や、開発途上国(への支援)をまとめている国連開発計画などでは、実はこのように「脱成長が解決策になる」という話はないのです。
どうしてなのかというと、この「元に戻る」ということが、そもそも人の意思というものからすると極めて非現実的であるということが一つです。もう一つは、産業革命以降に多くの産業は発達しましたけれど、それ以外にも、産業革命以降に世界は変わっているのです。その大きな要素は人口増加です。
そこから(産業革命以降)世の中が便利になり、もっと端的にいうと赤ちゃんの死亡率が下がっていきました。科学の発達、衛生の発達、薬品の発達等で死亡率が下がっていけばいくほど、当然、人は増えていきます。「人口ボーナス」といわれたりしますけれど、これが産業革命以降に起きていることなのです。
当然、人が増...