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注目の「デカップリング」、経済成長と脱炭素は両立可能か

ESG投資の現状と課題(2)デカップリングと機関投資家

夫馬賢治
株式会社ニューラルCEO/経営・金融コンサルタント/信州大学特任教授
情報・テキスト
今、「デカップリング」の議論が世界中で起こっている。経済成長を実際に起こしながら、温室効果ガスの排出量を減らす、すなわちカーボンニュートラル型に持っていくということだが、果たしてそれは可能なのか。どうすれば、経済成長と気候変動対策を両立させることができるのか。その鍵を握るのがESG投資である。それを支える機関投資家の話と合わせて解説する。(全3話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫

●経済成長と温室効果ガス排出削減の両立に向けた「デカップリング」


―― 前回のようなお話を聞くと、疑い深い人は、そうは言いますけどそれは理想論で、そう簡単にはいかないですよという反応も出てくるかもしれません。しかし、先生の本を読むと、実はもう世界の投資のあり方がそちらの方向に動いているというお話をされています。よくいわれるのが、1パーセントの金持ちがガッポリと稼いでいて、99パーセントは貧乏だというような話ですけれど、実はそんな姿ではないのだというのが大変印象深かったのですが、このあたりについてはいかがでしょうか。

夫馬 まず、世界で「デカップリング」というものが実際に起きてきているということを説明しなければいけないと思います。

 「この問題はそんな簡単ではない」という方々にとって、一つの根拠の柱になっているのが「デカップリング議論」というものです。デカップリングという言葉は、「デ」という接頭辞が付いているカップリングのことです。カップリングはカップルで「組ませている。両者が伴っていく」ということなので、もともとカップリングの世界としては、「経済成長すれば必ず温室効果ガスは増える。これは切り離せないものなのだ」ということです。しかし、デカップリングというときにはそうではありません。経済成長を実際に起こしながら、温室効果ガスの実質をカーボンニュートラル型に持っていくことができる。これがデカップリング論といわれているものです。

 デカップリング論自体は、2000年代の後半から、むしろ気候変動に関する科学者側から出てきた概念でした。これが経済界に入ってきて、「なんだ。できるのであればわれわれはそちらに向かうよ」ということで、カーボンニュートラルの思想的な大きな柱になっているのです。

 では、デカップリングが起こり得るということがどうして言えるようになってきたのでしょうか。これは、まさに2010年代に起こってきた現実なのです。2010年代にデカップリングが確認されている場所に、例えばドイツやスウェーデンがあります。なぜ経済成長を続けたのに温室効果ガスが大幅に下がってきたのか、その理由は本当にシンプルです。2010年代に起きた温室効果ガスの大量の削減は、再生可能エネルギーによるものです。

 ドイツやスウェーデンなど、ヨーロッパでは電気が火力から再生可能エネルギーに変わるということが実際に起きてきました。電気を使って経済は成長しています。その電気の中身が再生可能エネルギーに変わったことが、デカップリングの大きな根拠になっているのです。

 さらに、電気以外もやろうというのがこれからの時代でもあるのですが、実際に「脱成長」とおっしゃる方々も、気候変動を止めるためにはどうしたらいいのでしょうかというときに必ず挙げてくるのが、再生可能エネルギーの話です。なので、彼らも再生可能エネルギーこそが脱成長(のカギ)で、電気も再生可能エネルギーに変えるべきだとおっしゃっているのです。

 では、どうして2010年代に再生可能エネルギーがこれほどまでに普及したのかというと、まさにこれは「資本主義の力」なのです。もともと再生可能エネルギーは、設備をつくるのも高く、(設置する)パネルも高かったのです。競争力のある電源としては一切使えなかったのが、2000年代の途中までです。しかし、そこから大量に投資と技術開発が始まりました。誰がやったのかというと、民間の営利企業たちです。営利企業たちが、たくさんのお金を調達して、次の社会の電源の技術開発に向かう。多くの工場もつくっていく。そして、その資金を支えていったのは民間の投資家たちです。政府も一部、補助金を出しました。まさに資本主義の構造の中でコストを削減し、技術開発が進み、2010年代に再生可能エネルギーが大量に導入をされていったのです。

 仮に、この資本主義そのものを否定してしまっていたとしたら、今、再生可能エネルギーはここまで普及をしていないでしょうし、2010年代にはもっと温室効果ガスが増えていたということです。

 そう考えていくと、資本主義がある時代よりも、資本主義じゃない時代は、はるかに温室効果ガスの削減は難しくなっていってしまうのです。IPCCの出している気候変動のレポートの中でも、再生可能エネルギーがこの10年間でできたように、民間の資金も含めて技術変革を加速していくことが、気候変動のカーブ(編注:流れ、方向を変える)を達成する秘訣であるということまで書かれているのです。

 世界の主流の考え方は、資本主義を否定するのではなくて、資本主義の技術開発を加速させる原理、創造の力を今以上に発揮させながら、破壊を止め方向を変えることに向かっています。そう考えていくと、脱成長というものがソリューションになっていかないということです...
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