●自粛解除のタイミングは非常に難しい
―― 前回のお話の後半部分についてお聞きしたいことがございます。テンミニッツTVの講義でも、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)が日本の法律の問題について指摘されていました。かつては伝染病予防法があり、政府が国民の行動を禁止することができました。しかし、現在の法律体系では行動を禁止することはなかなか難しいとのことです。このこともあり、日本の場合、政府が打ち出せる方針は、要請やお願いベースにとどまってきました。それゆえ、前回おっしゃった「寄り添う」や「一致団結」というキーワードに象徴されるように、国民が一丸となって問題に対応してきた側面が強いかと思います。
しかしその反面、ここからどうやって抜け出すのかについては、考えが十分に深まっていないのではないでしょうか。現状では誰もが「ステイホーム」を正義のように思って行動を自粛しているという状況が見受けられますので、ステイホームを解除する切り替えが難しくなるように思います。とりわけ、状況が読みづらくなればなるほど、国民の中でも意見が割れていくでしょう。これは国民の自発性に頼っているがゆえに生まれる問題です。こうした問題については、日本の法体系を含め、どのような仕組み作りが必要なのでしょうか。
曽根 法律の問題については、過去の反省が関連していると思います。特にハンセン病患者の方々が被った問題への反省が、厚労省の関係者に根強くあったのだと思います。その他にも、血友病患者が厚生省を訴えたHIV訴訟もありました。このような過去の苦い経験があるので、ある程度慎重であるのは仕方がないことだと思います。
しかし同時に、これに関する大きな決断を下さなければならない部分も出てくるでしょう。今回の場合、緊急事態宣言をどんな条件であれば解けるのかについての計算方法が問題です。8割の接触削減を行い、新規の感染者数が減りました。しかし今後、減っただけでなく「もう安心だ」と思えるのはどの程度なのでしょうか。緊急事態宣言を解除し、経済活動を再開して、再び満員電車で通勤したり、居酒屋で唾を飛ばしながら議論したりすることが可能になってしまうと、ウイルスがまた蔓延してしまう恐れもあります。海外から来る人によって第二波、第三波が起こることもあり得ます。この読みは、非常に難しいでしょう。