●コロナがもたらした3つの悪影響
それでは、教育環境についてお話をさせていただいた続きとして、次にネガティブな意味での環境の力・影響について、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
タイトルにありますように「コロナ禍」、世界的なコロナウイルスの蔓延によってわれわれの社会は大きな打撃を被ったわけですが、その中で私どもが経験し、学んだこともあるはずです。そのように学んだことから、われわれ大人が子どもたちに何をしてあげられるのか。何を学んでほしいのかなどについても考えてみたいと思います。
ここではコロナ禍を例に挙げていますが、これに限るわけではなく、あらゆる災害やあらゆる負の環境というのは、考え方によっては「いい意味での教訓」になるのではないかというメッセージも、ぜひお伝えしたいと思います。
コロナ禍は、子どもたちにとってもわれわれ大人にとっても、“Toxic Stress”すなわち過度のストレス、長く続く悪い環境であったことに疑いはないと思います。その具体的な悪影響について、ここでは(1)と決めさせていただきました。
悪影響という意味で「向かい風」のイラストを入れていますが、まずはこちらの三つの影響ではないかと考えます。すなわち、「喋らなくなる」「独りでいる時間が長くなる」そして「実際に体験してみる機会が減ってしまう」。この三点です。
実はこれらはコロナ禍を例に挙げていますけれども、インターネット社会における子どもの環境の問題でも、全く同じことが議論されています。インターネット・ゲームに熱中するのはなぜいけないのですか。(やり過ぎると)それは喋らなくなるからです。そうなると、一人で行動するようになりませんか。実際に体験をする機会を減らしていませんか。まったく同じ議論になってくると思います。
●実体験が育む「想像力」の重要性
この三つの中で「無言になる」「孤立してしまう」は、皆さんがよく実感されていることですし、今日は時間の都合もありますので割愛させていただき、私の最も重要だと思うこと、ぜひ一緒に考えていただきたいと思う「実体験の減少」というポイントについて、お話をさせていただきます。
そもそも実体験というのは、なぜ必要なのか。なぜ実体験は育ち盛りの子どもに必要なのか。そのことについて、まずご一緒にお考えいただきたいと思います。
実体験、実際に体験してみることによって、子どもたちそしてわれわれは何を得ているのでしょう。私は、「想像力」を得ているのではないかと思うのです。別の言い方をすると、育ち盛りの子どもが実際日常生活の中でいろいろなことを体験してみる。その中で、想像力が育まれるということです。
実際の体験には、いいことも悪いこともあります。楽しいこともいっぱいあると思いますが、お友達とおもちゃを取り合ってケンカになって、顔に砂を投げつけたら相手が泣く、お母さんも呼ばれてお母さんが泣きながらあやまる。これも実体験だと思います。
いろいろな実体験を積む中で、子どもながらにも「こんなことをしたら、こんなことが起きる」「こういうことをすれば、こんなふうに喜んでもらえる」ということを実際に体験してみる。これは大変に重要だと思います。
その延長として、実際に体験したことがないことでも、未知の問題でも、それに直面したときに子どもたちは想像力を働かせて、問題を解決し、正しい行動を取るようになるのではないかと思います。
●想像力から生まれる「共感力」は子どもたちを幸せに導く重要な力
想像力がどんどん育まれていくと、「こんなことをしたら、多分お友だちは泣いてしまう」「こんなことをすれば、お父さんが喜んでくれる」「こんなことをしたら、お母さんがとっても心配する」という想像力が、子どもの心の中でどんどん育まれていく。これは、皆さん想像できることだと思います。
その延長として、さらに重要な力として、私は「共感力」というものが養われていくのではないかと思います。相手の立場になり、相手になったかのように、相手の喜びや悲しみ、怒り、憤り、苦しみを感じ取ることができる力です。
この力は想像力の延長線にあり、共感力を養うためには、やはり実際にやってみるしかないと私は思います。失敗を重ね、あるいは喜びを体験することしかないだろうと思うわけです。この共感力という力が、将来子どもたちを幸せに導く一番重要な力だと思います。
自分自身が、自分の手で手に入れることのできる幸せというのは、ごく限られたものです。これは、皆さんがよくご存じだと思います。しかし、他の人が手に入れた幸せを一緒に喜ぶことができる人は、幸せをもっともっ...