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困難の克服と幸せな人生の獲得、それが小児科学の目的

現代の小児科学と最高の子育て(1)現代の小児科学の役割

高橋孝雄
慶應義塾大学医学部 小児科主任教授
情報・テキスト
現代の小児科学が果たす役割とは何か。医療水準が数十年前から急激な進歩を遂げている現在、小児科学が目指すのは、子どもがどんな困難も克服し、幸せな人生を手にすることである。(全7話中第1話)
時間:14:43
収録日:2021/07/14
追加日:2021/09/04
タグ:
≪全文≫

●想像もできない医療水準に達している小児科学


 慶應義塾大学医学部小児科の高橋孝雄と申します。今日は小児科医として30年以上仕事をしていた経験を踏まえて、子どもが育っていくということ、その中で遺伝子の力、そして環境の力がどのように相互作用しながら子どもを育んでいるのかということについてお話しさせていただきます。男性であり、小児科医である私がなぜ、子育てについてお話をしたいと思ったのか。そのようなこともふくめてご理解いただけるような話にさせていただきたいと思います。

 まずはさておき、現代の小児科学というのは、どういう学問なのかについてお話しさせてください。私が小児科医になった30数年前の話ではなく、まさに現代の最先端の小児科学のご紹介です。

 全ての医学がそうであるように、小児科学も自然科学としての学問の側面が非常に重要です。すなわちサイエンスとしての小児科学があります。今スライドの上半分に出ているように、小児科学は人の体が形作られる過程(成長)とそこに機能が宿る過程(発達)を科学する学問です。そして、それらの異常やその原因を突き止め、治療法を開発し、実際に治療を行います。

 現在の小児科学は、そこまで進歩してまいりました。生物学・自然科学としての小児科学は、私が医師になった30数年前とは違い、長足の進歩を遂げております。例えばiPS細胞に代表されるような、学問的な言葉で正確にいうと「幹細胞生物学」、基礎医学としての幹細胞生物学が非常に進歩した結果、現在の小児科学は私が小児科医になった頃と比べても、医療水準として想像もできなかったような進歩を遂げているわけです。


●小児科学の社会人文科学としての側面


 その一方で、これもまた全ての医療に関係したことですが、小児科学も社会人文科学としての側面、社会人文科学としての使命を持っています。

 スライドの下半分に出ているように、小児科学の社会人文科学としての使命は、子どもたちが、たとえそれが生まれつきのものであったとしても、全ての困難を克服して、将来、人として幸せな人生を手に入れる。これが小児科学の最終目的(目標)です。そのためには育児環境、家庭環境、学校環境から始まって、広く社会環境を整備し、子どもたちがゆくゆく幸せになるように。そういうことを目指す社会人文科学でもあります。

 この側面でも、小児科学は30数年前と比べて長足の進歩を遂げています。毎日の新聞のニュース等で見ない日はないと思うのですが、残念ながら虐待の被害者になる子どもたち、貧困な家庭に育っている子どもたち、学校でいじめに遭っている子どもたちがいます。

 子どもであれば、生きていく過程で、あるいは成長していく過程で、必ず困難を背負って生きていくものだというのが、小児科医としての私の実感です。医学としての小児科学は、そのような子どもを取り巻く社会環境をすべからくいい方向に向けて、子どもたちが将来幸せになるようにということを願っている医学でもあるわけです。

 繰り返しになりますが、こちらのスライドに記した自然科学としての小児科学の役割、社会人文科学としての小児科学の使命、この二つは全ての医学に共通した、非常に大事なポイントになります。

 今日、これからのお話は、遺伝あるいは遺伝子の力と、環境あるいは環境の力をめぐるものになります。実は上段の「自然科学としての小児科学」というのは、「遺伝に関する学問」と呼んでもいい側面があります。一方で、環境を整備して子どもたちを幸せに導く社会人文科学としての小児科学の役割は、まさに「環境の力について科学する学問」であるといいかえることもできると思います。

 すなわち現代の小児科学の役割を考えてみると、常に遺伝あるいは遺伝子の力と環境の力、これら二つのバランスを常に考えていく必要があるということに気づかされるわけです。


●遺伝の力と環境の力のバランス


 それでは、こちらのスライドを使って、子どもに限らず全ての人々の一生が、遺伝の力と環境の力のバランスの上に成り立っているということを、簡単にご説明させてください。

 このスライドでは、時間が上から下へと流れています。一番上の生まれたときから、一番下のこの世を去るまで、人間はずっと遺伝子の力と環境の力の影響を受け続けているということを示したスライドです。

 ただ遺伝は逆三角形、環境は三角形の形になっているように、これら二つの力の及ぼすバランスは、人生のどのステージにあるかによって大きく変わってきます。一言で申し上げれば、子どもが小さければ小さいときほど、遺伝子の力で支配されている。遺伝子があらかじめ決めた成長や発達のシナリオに沿...
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