●通園やごっこ遊びが子どもの実行機能の発達を助ける
最後に、親子関係以外の要素についてお話ししようと思います。私は今、大阪府の家庭支援事業に携わっていますが、そこで感じたのは、子どもと良い親子関係を築けないという家庭が多くあることです。そのような場合でも、その子どもたちの将来に問題が発生するかというと、必ずしもそうではありません。
その理由として、親子関係以外の要素も実行機能に影響を与えるためです。例えば、保育園や幼稚園に通うことも重要だといわれています。ある研究では、保育園・幼稚園に通う子どもと通わない子どもを比較して、実行機能に関わる多動性や攻撃性の違いを分析しました。すると、保育園・幼稚園に通うだけで、自分をコントロールする力が成長することが分かりました。さらに、この効果は貧しい家庭の子どもにとって、より大きいのです。
保育園や幼稚園への通園は、規則正しい生活習慣を持つことにつながります。また、保育士、あるいは幼稚園の先生が、子どもが信頼を置けて、大好きな大人としての役割を果たします。親の代わりに必ずしもなる必要はありませんが、その存在によって子どもの心が救われる側面があるのです。このような理由で、保育園や幼稚園にしっかりと通っている子どもは、実行機能が成長しやすいことが分かっています。先ほども指摘した通り、そうした通園の効果は、貧しいご家庭、あるいは恵まれたご家庭の子どもにとって、より大きいことも示されています。
また、幼児教育や保育のプログラムにも、実行機能や自分をコントロールする力の発達に、良い影響を与えるものが、最近いくつか提案されています。その一つは、独り言やごっこ遊びを特に奨励するような保育・教育プログラムです。
これはカナダの研究者が提唱したプログラムによるものなのですが、道具を用いてごっこ遊びや劇をすることで、実行機能を高めることができるということが示されています。なので、まずはこういったごっこ遊びとか、そういったことが実行機能の発達にはどうも大事らしいということが分かっています。
なぜごっこ遊びが子どもの実行機能の成長・発達に良いかというと、一つは身体活動であることが挙げられます。それ以外にも、ごっこ遊びの中では、ルールを守る必要があります。例えば、お医者さんごっこをしているとしましょう。「あなたはお医者さん役、私は看護師役、あなたは患者役」というルールが決められた場合に、看護師役の人が急に「私はお医者さんをやりたい」とか、患者役の人が急に「私は看護師をやりたい」というと、遊びが成り立たなくなってしまいます。まず自分に割り当てられた役を演じるというルールを守る必要があるのです。ルールを守った上で、遊びが一段落ついた後、「今度は私がお医者さん」、あるいは「今度は私が看護師さん」などのようにルールを柔軟に変えることもできます。
こうした変化が、先ほど指摘した頭を切り替えるという実行機能の一側面と、密接に関わっていると考えられているのです。従って、ごっこ遊びの中でしっかりとルールを守った上で、場面に応じてルールを切り替えるという柔軟性が、実行機能の発達を促進すると考えられています。
●モンテッソーリ教育とマインドフルネスの効果
その他にも、将棋の藤井聡太棋士が受けていたといわれるモンテッソーリ教育も、実行機能の発達に良いと考えられています。モンテッソーリ教育は、「教具」と呼ばれる特殊な道具を用いる教育法です。モンテッソーリ教育の一つの特徴は、子どもの自主性を重んじ、自分で何かを成し遂げることを非常に重視することです。
先ほどから指摘している通り、実行機能は自分自身で目標を達成する力です。したがって、自分で何かを達成することは、非常に重要です。モンテッソーリ教育では、子ども同士の関係よりも、子どもが一人で課題に教具に取り組むよう仕向けます。比較的難しい教具ですが、粘り強く達成することを奨励するような教育プログラムなのです。
このプログラムに参加した子どもと参加しなかった子どもを比較すると、やはり参加した子どものほうが実行機能の発達度が高いことが示されています。私たちも日本国内で同じような研究を試みたところ、やはりモンテッソーリ教育に参加した子どものほうが実行機能が高いという結果を得ています。
他に現在有効性が示されているものとして、瞑想があります。あるいは「マインドフルネス」ともいわれます。この瞑想は、一時期ビジネス界でも非常に流行しました。深呼吸などを通じて自分の呼吸に集中して呼吸を整えて、今という瞬間に集中するのです。何かに集中することは自分のコントロールにつながるという意味で、非常に重要だと考えられてい...