●人間は起床時間の約4分の1は我慢して過ごしている
京都大学大学院文学研究科の森口と申します。今日は「自分をコントロールする力」と、その発達についてお話ししたいと思います。
「自分をコントロールする力」は、一般的に「自制心」と呼ばれるものを指します。この自制心は、われわれ人間にとって非常に基本的、かつ根本的なものです。まずはこの点に関してお話ししていきます。
まず一つ研究を紹介します。200人の男女を対象にポケベルを携帯してもらいます。そして、1日の中で無造作に7回そのポケベルを鳴らす調査です。ポケベルは皆さん、持っていたことがあるかもしれませんが、適宜、音が鳴りますね。その音が鳴ったときに、何をしていたか、研究者が尋ねるのです。この研究では、ポケベルが鳴った前後に何らかの欲求を感じていたか、尋ねました。食欲や睡眠欲、最近ではSNSを使いたいという欲など、さまざまな欲があると思いますが、そのような欲を感じていたのか、そしてその欲求を抑制するよう努めていたのか、尋ねたのです。
例えば、皆さんが働いているとき、あるいは勉強をしているときに、お腹が空いた、あるいは眠いと思うことがあると思います。それでも、そのような気持ちをある種我慢しながら、仕事や勉強に向かい続けることがあるでしょう。このような欲求の抑制や我慢をどの程度行っているのか、この研究では調査したのです。その結果、起きている時間の約4分の1、およそ4時間程度、被験者は何らかの欲求を感じ、そしてそれを抑えていたことが明らかになりました。
つまり、この研究から、われわれは1日のうちの4時間も自分を抑制し、コントロールし、我慢していることが分かるわけです。今日はこのような傾向が、子どもの発達段階の中でどのように出現するのか、詳しくお話ししたいと思います。
●「自制心」は人間固有の力
もう少し、自分をコントロールする力について説明します。自分をコントロールする力とはより具体的にいうと、何かの目標に向かって我慢する、あるいはコントロールする力のことを指します。例えば、皆さんがダイエットしていたとしましょう。ダイエットは、自分の健康を維持するために、何かを食べたい、あるいは飲みたいという欲求を抑えつけることですよね。ダイエットのためにケーキやビールを我慢することは、皆さんが日常的に取り組んでいるかと思います。
ここで重要なのは「目標がある」ということです。この場合の目標とは、健康を維持するためにダイエットするということです。その目的を達成する手段として、例えばケーキを食べたい気持ちを抑えつける、あるいはビールを飲みたいという気持ちを抑えつけるわけです。この「目標のために」という点が重要です。目標がないのであれば、我慢する必要もありません。目標のために自分をコントロールする力を「自制心」とも呼ぶのです。
この自制心は、われわれ人間には非常に特殊に備わっていると考えられています。一方、人間に近い生物とされるチンパンジーや、あるいは犬などの生物にも、ある程度我慢する力、自分をコントロールする力が備わっているとは考えられていますが、しかし、やはり人間と比べると、こういった動物の自分をコントロールする力は劣っているのです。
例えば私はパグという犬を飼っています。その犬に対して餌をちらつかせると、我慢できずにすぐパクッと食べてしまいます。もちろん訓練によってある程度我慢させることはできますが、その際には彼らは多大な労力を必要としています。実際にはなかなか我慢することは難しく、すぐに食べてしまうわけです。このように、人間にとっては自分をコントロールする力が重要だということが分かるのです。
●子どもがいつ自制心を成長させるかが最近注目を集めている
では、人間にとって重要なこの自分をコントロールする力は、いつ、どのように発達するのでしょうか。やはり、赤ちゃんにこのような力が備わっているとは考えにくいでしょう。それではこのような力が発達するのは、子どもの頃なのか、あるいは青年期なのかという点について考えていきたいと思います。さらに、この講義の二つ目の目的として、このような子どもの「自分をコントロールする力」をどのように育てていけるのかという点についても、考えていきます。
教育現場や子どもの発達を研究する現場で、自分をコントロールする力は今、非常に注目を集めています。
以前に注目を集めていた子どもの力は、やはり頭の良さでした。皆さんも「IQ」や「知能」という言葉を聞いたことがあると思いますが、頭の良さはIQテストなどで計測することができます。例えば、どれだけ物事を知っているかという知識の豊富さや、どれだけ早く問題が解...