●なぜ「純潔」にこだわるのか
―― 皆さま、こんにちは。本日は小原雅博先生に、習近平政治を深掘りした講義をしていただきたいと思っています。小原先生、どうぞよろしくお願いいたします。
小原 よろしくお願いします。
―― まず習近平の生い立ちです。どういう経歴でこの最高権力者に上り詰めていったのかをお聞きしたいと思います。彼の経歴には、何か特徴的なことがあるのでしょうか。
小原 一つはやはり地方勤務が長かったことです。地方で経験を積んだのがあると思います。特に若い頃には陝西省に下放されています。
―― 下放というと、文革のときに若者が農村に派遣されたという話ですよね。
小原 はい。特に彼の場合には、お父様が習仲勲という副総理もやっていた人で、いわゆる「紅二代」の、「太子党」です。ただ、父の習仲勲はまさに文革(文化大革命)のときに批判されて、迫害されました。そうしたことがあったので、そういう意味でいうと、彼は非常に厳しい時代を過ごしたと思います。
しかし、その後の彼の政治的な発言を見ていると、むしろそこが彼の原点になっているところがあります。ある専門家は左傾化していると言っていますが、毛沢東を非常に意識しているところがあります。
彼が若い頃にそうした経験を積んだことが、ある意味で今の共産党の原点です。彼は「純潔」とよく言いますが、その純潔は、共産党の原点が一体何なのかを意味しています。
彼は2012年に党のトップに立ちます。それまでは、腐敗が非常に大きな問題でした。これは胡錦濤自身が、「この腐敗を放っておけば国が滅ぶ」と言うぐらい大きな問題になっていました。そのため、彼が出てきて反腐敗闘争が起こります。これは権力闘争の裏返しだと言われますが、やはりこのままでは共産党はダメだということです。革命に参加した人たち、あるいはその関係者の血を引いた2代目の指導者として、中国の政治を担うようになったときに、彼の若い頃の経験は非常に大きな影響を与えています。
彼自身は、若い頃にそうした農村地帯で一緒になって苦労した人たちとの関係をいまだに持っています。それ以降も、河北省、福建省、浙江省ときて、短かったですが、上海市を経由して、中央に躍進していきます。福建省には17年間も勤務しています。そういうところで勤務したときの部下をその後、引き上げて、自分の権力基盤を着実に強化してきた流れがあります。そういう意味で、彼の経歴において、地方の経歴が非常に今の政治に大きな影響を与えているのではないかと思います。
●習近平の厳格な要求「モデルになる共産党員でなければいけない」
―― 若い頃からキャリアの中で各地を回っていた話がありましたが、中国共産党における出世の道は、党員になって、いろいろな地域の仕事を与えられて、そこで功績をあげると、認められて上がっていく仕組みになっているのでしょうか。どのような仕組みになっているのでしょうか。
小原 そうですね。基本的には地方でそれなりに経験を積んで、そこでそれなりの成績をあげていきます。改革開放の時代には、その成績はいわゆる経済成長でしたが、そこでは水増しの問題など、いろいろな苦労がありました。しかし、もうそれだけではダメで、量の成長ではなく質の成長が大事になります。これはまさに環境の問題で、「空気をきれいにしてくれ」「水をきれいにしてくれ」という非常に大きな声があり、こうした国民のニーズに応えていかないといけません。そういった中では、やはり単に数字だけを追うのではなくて、環境にも配慮した持続的な経済成長、つまり質の高い成長を求めていかないといけません。
また、今はデジタル化の時代なので、イノベーションの分野にも力を入れないといけないとなってくると、かなり専門的な能力や知識も要求されます。もちろん、政治性は非常に大事ですが、単に政治性があるだけではなくて、特にそこは習近平の時代には重視されています。
今までのやり方、特に腐敗はダメだということです。要するに、これまで皆さんはだいたい多かれ少なかれ、そうした状況にありましたが、これからはもう絶対ダメだということです。こうした習近平の思想におけるある意味での純潔化は、人民から見て悪代官ではなくて、モデルになる共産党員でなければいけないということです。やはり人民を引っ張っていける共産党員でいないといけないという強く厳格な要求を習近平は求めています。
例えばスライドに、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」とありますが、この思想とは一体何なのかとよく言われます。2021年7月1日の中国共産党結党100周年のと...