テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

中国共産党…中央集権の弱点と底知れぬ巨大な腐敗

習近平―その政治の「核心」とは何か?(3)権力の集中と反腐敗闘争

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
武漢で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた際、中国政府による初動の遅れが問題となった。一党支配体制におけるトップダウンの行政指令型には、トップが判断を誤った場合のリスクが大きいことが指摘されている。それでもなお、習近平への権力の集中化は止まらない。その背景には何があるのか。(全6話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:00
収録日:2021/07/07
追加日:2021/10/26
カテゴリー:
タグ:
≪全文≫

●トップダウンの指揮系統がはらむリスク


―― そうなってくると、当然地方に行っている若手の人たちからすれば、どうやって上に上っていくかというときに、中央を意識するのは当然のことです。中央がどういう方針を出しているかをかなり熱心に見ていると思います。

 しかし、今先生のお話の中であったように、そればかりに走ってしまうと、例えば環境問題が悪化してしまいます。何かひどいことが起きると、地元からの反発も高まってきます。また逆に、中央の方針が間違ってしまうと、結構大変なことになりかねないですよね。

小原 2020年、武漢で新型コロナが爆発的に広がったときに、武漢の幹部が「中央と地方との間に大きな壁がある」ということを言って、コミュニケーション上の問題が明らかになりました。要するに、自分たちが報告をしなかったとはいっても、中央でどういう方針を採るかが決められて、トップダウンで来るので、地方がなかなかものを言えない状況になっています。そのへんの中央と地方のコミュニケーションをどのようにやっていくかが問題です。

 例えばスライドに「核心」とありますが、習近平の核心的な地位を断固として擁護しようということがあります。それから、これは日本語で読むのは大変ですが、「国之大者」という言葉を習近平は最近よく使います。これは一体何なのかというと、国で最も力があるまさに習近平のことです。彼の言動をきちんと見て、それに高度に一致するように行動しなければいけないことになります。

 そうなってくると、それで本当に一枚岩になって、トップの判断が正しければうまく動いていきますが、判断を間違えたときに、それをどう修正していくかが極めて難しいです。異論は排するのは、民主主義の体制と違うところだと思います。

 だから、やはりこういった権威主義の国は、権威主義のトップに立つ人に相当な能力が求められます。聡明かつ、まさに全体を見ることが必要です。ここに書いてあるように、大きな流れはどこにあって、全体の局面としてどこが大事で、どこを最適に守らないといけないのかを常にきちんと判断ができなければいけません。それによって、9500万人の党員が一糸乱れずに一気に動けば、大変な行動力・組織力になっていきます。

 初動では失敗したコロナ対応が、その後非常にうまくワークしました。これは人権やプライバシーとの関係で、もちろん日本、あるいはアメリカのような民主主義の国では問題があります。しかし、それが一気にできたことは、彼らなりのガバナンスの強さだと思います。ただし、その判断を間違えると、非常に危うくなる弱点もあります。


●「新しい矛盾」から起こった腐敗を正さないといけない


―― 中国の歴史を振り返ったときに、確かに鄧小平の時代までは、その前の毛沢東の時代に明らかに指導者が失敗したのではないかという批判があります。例えば文化大革命や反右派闘争などがあって、一説によると数千万人が亡くなったのではないかと言われます。

 ある意味では指導者が失敗した姿、それによって国が非常に荒れてしまった姿を間近で見てきた世代の人たちからすると、指導者が間違えたらどうしようという危機感もかなり強かったのではないかと思います。毛沢東が死んでからこれだけ時間がたってくると、指導者の失敗に対するハードルの高さはだんだん下がってきてしまう可能性もあるのではないかと思うのですが、先生がご覧になっていていかがですか。

小原 これはやはり鄧小平に、文革のようなことを二度と起こしてはいけないという気持ちがありました。その原因は毛沢東一人に権力を集中して、まさに個人崇拝まで行ったことです。その結果ああいう文革が発動されて、大変な悲劇が起きました。鄧小平からすれば、もちろん民主化はできませんが、それを防ぐために、例えば党政分離で、党と政府の仕事を分けたり、党企分離で党と企業を分けたりする方向で進めていこうとしました。

 それから同時に集団指導体制に変えました。江沢民も胡錦濤もそうですが、胡錦濤のときには7人の常務委員が、あるいは9人の常務委員がそれなりに討論をして、そこでコンセンサスを作って決めていくというやり方で来ました。

 ところが、それによって実はいろいろな問題が今の中国で起きてきています。先ほど(第1話)も言いましたが、「新しい矛盾」があります。つまり、改革開放が進むことによって経済が高度化していく中で、よりよい生活を求める人たちから新しいニーズが出てきます。そうしたニーズにどうしても生産あるいは経済のほうが十分応えられません。経済の不均衡、あるいは不十分な発展といいますか、そこがミスマッチになっています。そうした問題も含めて、そこに腐敗が起きてくるのです。

...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。