テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

銃社会のアメリカと監視社会の中国、問われる国家の安全

米中関係の行方と日本の今後を読む(3)主権か治安か、監視か銃か

小原雅博
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
情報・テキスト
コロナによる複合危機の中、問われているのは社会や国家の安全をどう考え評価するかということだ。それは為政者のみならず市民一人一人が考えるべき問題である。銃を持つことは権利でもあればリスクでもあり、監視され管理されることは安全につながる。それは大統領選挙にもつながる二者択一だ。(全12話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:51
収録日:2020/09/08
追加日:2020/10/10
ジャンル:
≪全文≫

●コロナ危機から浮かぶ米中の対比と、主権国家の歴史


小原 今回のコロナ危機、二つの危機がせめぎ合う複合危機の中で問われているのが、社会や国家の安全をどう考え、評価すればいいのかということです。アメリカと中国でこれだけ対応が違い、現状にも違いが表れている。この点を掘り下げると、アメリカの弱点と中国の自信のようなものが浮かび上がってきます。それはまた、中国が現在プロパガンダとして指摘し、焦点化している部分でもあります。

 アメリカの弱点とは何かを考えると、国家にとって最も大事な役割は何なのかということにつながります。人類の歴史を見ていくと、主権国家というものが登場して国際社会や国際政治が誕生するのは、16世紀のヨーロッパからです。

 この頃トマス・ホッブズという哲学者が言い出したのは、「国民や市民というものは、自分を守るために仕方なく暴力を振るう。『自然権』というのは、自分を守るために与えられた“暴力を振るう権利”である」ということです。

「これを放置しておくと、人間同士が殺し合い、最後には人類は滅びてしまう。そのような恐怖におののくような自然状態をなくすためには、それぞれの個人が持つ自然権を君主なり議会なりに委譲して、自然権を独占させる必要がある」

 この結果、マックス・ウェーバーなどが「正当化された暴力の独占」と呼ぶ圧倒的かつ比類なき唯一の権力が「主権」と呼ばれるようになり、そうした主権概念の下で「主権国家」というものが誕生してくるわけです。この主権により、その社会にいる人々の安全は守られる。なぜならば、国家が圧倒的な暴力を独占しているからです。

 そういう点から考えると、人民は国家に逆らうことはできないわけです。ただし、それはもちろん法に従って行わなければならない。つまり「法治」でなければならないということですが、それを乱用する人物も出てきます。権力を握るのも、それに対する「抵抗権」を行使するのもそのためで、そこからフランス革命やアメリカ合衆国独立という人類の歴史が存続してきました。

 いずれにせよ、国家の行うべき最も大事なこと、すなわち国家の存在理由あるいは国家理性(レゾン・デタ)とは、国民の安全を守ることであるという話です。


●銃を持つ権利のあるアメリカで社会の安全をどう考えるか


小原 そこから、今回のコロナ危機において、国民の安全を守れたのはアメリカなのか中国なのかという問いかけがあるわけです。それがまさに、今のアメリカの弱点というようなことになってくる。

 例えば、コロナ以前から中国が指摘していたのは、アメリカが銃社会であることです。日本などは「刀狩り」が続いているような状況で、一般の日本人はよほどの理由があり、法律に従ってきちんと登録するプロセスに則らない限りは、銃を持てません。だから、銃による事件・事故・死亡は圧倒的に少ないわけです。

 そのため、日本は世界でも治安のいい社会だと言われており、中国もそれに近い状態になっています。ところが、アメリカでは銃の保持は自由権の一種として、憲法で保障されているわけです。

―― 権利ですね。

小原 はい、権利として、です。アメリカではまさにそういった判決が最高裁でも出ており、「銃を持つ」ことは憲法でも保障されている抵抗権の一種です。これはフランス革命の時に起きた議論で、政府が自分たちの権利を奪うような存在になった場合には、自分たちは抵抗権を行使してこれを倒すことができるのだというものです。

 ところが実際には、銃というものは治安を悪化させつづけています。増大する銃犯罪による悲劇は増大し、時々は世界のニュースにもなるほどです。中国ではそのことを「アメリカの社会を見てみろ。こういう社会がいいのか」と、国民に示しています。それにより、今の統治体制(ガバナンス)がいいのだと言ってきました。今回のコロナでは、まさにそういう「社会の安全をどう考えるのか」という問題が出てきているわけです。


●アメリカの暴動をプロパガンダに使う中国


小原 今回、コロナ禍のアメリカで起きてきたことの一つが、警察官の黒人に対する過酷な取り締まりです。白人と比べると明らかに厳しい。そのような中、警察官によって射殺される黒人が出てきて、大きな人種差別として社会問題になり、デモなども起こりました。今度はそうしたデモが過激になったため、それに対して「あれを見ろ。治安が大事だろう」という議論が起こる。放火したり、商店を襲ったりする映像が流れ、それに対してトランプ氏が軍隊を出す、と言い放ちます。「治安が非常に大事だ。皆さん、治安は必要ですよね」という対応を、トランプ氏は取ってきているわけです。

 平和的なデモもたくさんあるわけですから、社...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。