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劇的な米中対立の深まりには大統領選挙より大きな要因がある

歴史から見た中国と世界の関係(1)コロナ後の米中関係はどうなっているか

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
2020年は米中関係にとって非常に決定的な曲がり角の年である。11月のアメリカ大統領選挙に注目が集まるが、新型コロナウイルスの発生源とされる中国への不信感に加え、香港国家安全維持法の制定も看過できない問題である。コロナ問題に加え、民主主義を守る戦いという側面で、アメリカは引くに引けないところに来ている。この2つにより米中関係は、これまでにないほど悪化している。(全10話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:24
収録日:2020/08/21
追加日:2020/09/28
≪全文≫

●米中対立が深まってきている


―― 皆様、こんにちは。

中西 こんにちは。

―― 本日は中西輝政先生に「歴史から見た中国と世界の問題」について迫っていただきたいと思います。中西先生、どうぞよろしくお願いいたします。

中西 よろしくお願いします。

―― 米中対立がいろいろと続く中、特にコロナウイルスの問題を受けて、世界と中国の問題が新しい局面に入った感じを受けます。そこをどのように見ておられるか、お伺いできればと思っております。アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、それぞれの局面から中国問題がどう見えるかを順番に、歴史を踏まえつつお聞きしていきます。

 まずは対立の核心であるアメリカについて、特にコロナ後の情勢をどう見ていらっしゃいますか。

中西 アメリカ大統領選挙を控えた2020年は、米中関係にとって1世紀に1回あるかないかという非常に決定的な曲がり角の年と、将来の歴史家は評すると思います。

―― そこまで大きい曲がり角ですか。

中西 これまでも米中関係は緊張をはらんでいて、対立に向かうという見方が多くありました。もちろん、その趨勢は間違いではありませんが、2020年に入って大きくいえば2つの要因が加わりました。それに加えて、大統領選挙の年でもあります。この3つの要因が重なり、劇的な米中対立の深まりが、われわれの眼の前に広がっていると思います。

 第1の要因は、いうまでもなく世界を巻き込んだコロナパンデミック、コロナの広がりです。もともと発生源とされる中国が、もし1カ月早く情報を世界と共有していたら、ここまでひどい歴史的なパンデミックにならなかっただろうと。中国の情報隠蔽が、ウイルスが広がった大きな要因の1つと、世界中の国は見ています。

 口に出して言うか言わないかは別ですが、アフリカの国、中南米の国、中東のどんな国の人でも、みんなこれは分かっています。これが1つです。


●アメリカの国策の方向を決めた香港の映像


中西 次の要因は香港国家安全維持法という、国際政治史の中で見たことのない立法措置です。中国は過去に約束した、香港の「一国二制度」という、イギリスからの返還の基本的な条件だった原則を世界注視の中で完全に放棄しました。きつくいえば、踏みにじった。国際的な約束を踏みにじったのですから、民主主義の旗手をもって任ずるアメリカはもちろん、イギリス、さらにはドイツ、フランスといったEU諸国、あるいはオーストラリア、インド、もちろん日本も含めて、世界の民主主義体制を重んじる国は看過できません。

 アメリカから見れば、「やはり習近平体制の中国は、香港にとうとう手を出してきた。そら見ろ。言った通りだろう」というわけで、トランプ政権の非常に激しい反応を引き起こしています。「香港の自治を守る」という法律、香港自治法がアメリカで成立したのも、国家安全維持法を中国が香港に強行適用した2020年7月1日です。

 さらに中国は世界の人が見ている前で、日本でもよく知られる「民主の女王」といわれる周庭(アグネス・チョウ)さんを手錠をかけて引っ張った。あるいは民主派の代表的マスコミメディアの「蘋果日報(ひんかにっぽう=リンゴ日報)」の創設者・黎智英(ジミー・ライ)さんを両脇から警察官が拘束し、自由、民主主義、人権の弾圧を行った。「言論の弾圧を行っている中国」をこれだけ露骨に、世界中にその図柄を示したのですから、米中関係に当然、跳ね返らざるを得ません。

 後で取り上げたいと思いますが、アメリカの次の政権がどうなろうとも、あの映像一つでアメリカの国策の大きな方向はガッチリと決まったようなところがあります。そこからアメリカは離れるわけにはいきません。見ぬ振りをするわけにはいきません。

 3つ目の大きな要因は、11月の大統領選挙です。どちらかというと不利になってきたトランプ陣営にとっては、ここで中国に強硬な姿勢を示すことにより、共和党票がジョー・バイデン候補に流れる可能性を封じたい。そこで中国に強硬に対処する動きが、夏前からどんどんエスカレートしています。

 ただしこの選挙戦略は副次的な理由です。前の2つ、コロナ問題と香港の自由、あるいは民主主義を守る戦いという側面で、アメリカは引くに引けないところに身を置きつつあります。米中関係がここまで、あるいは今後も悪化し続ける大きな要因は、この2つにあります。
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