●親中の潮目を変えた2008年の出来事
中西 (米中関係において潮目を変えた)3つ目は、2008年のリーマンショックです。世界中がぺしゃんこになった、あの金融危機の中で、中国だけが大々的な景気対策を行って15兆元(日本円で54兆円ぐらい)の財政資金を投入し、世界経済のてこ入れに貢献した。この時、アメリカのメディアは、こぞって「中国は世界経済の救世主」と持ち上げました。
「中国は世界の繁栄と安定のための、アメリカのジュニアパートナーである」、あるいは「G2」、つまり世界を米中2国で仕切っていける。信頼できるパートナーになると。こういう思い入れを、またここで強めてしまうのです。
この間、中国は、実はいろいろなことをやっています。2008年には日本の尖閣諸島に、公船まで侵入させています。それをアメリカは見て見ぬ振りをして、「尖閣諸島問題は日中間で話し合ってください。アメリカは第三者として関与しません」という姿勢をとり続けました。これはオバマ政権でずっと続きます。それがトランプ政権になって、まさに画期的なことが起こったのです。
2017年から始まるトランプ政権では、中国が全体主義になっていることにようやく気づきます。経済が豊かになることは、中国を軍事強国の道へどんどん促すだけで、全然民主化には向かわない。オバマ氏の言っていたことは、とんでもない間違いだったのではないか。トランプ大統領は主として貿易問題に関心を持ちましたが、トランプ政権を支えた外交専門家の中では、この機会に何も分かっていないだろうトランプ大統領を担ぎ、時間切れになろうとしている対中戦略の大転換を図ろうという議論が起こります。
そこでホワイトハウスの中にいる安全保障や外交の専門家たちが、2017年12月に「国家安全保障戦略」という正式文書を作り、中国とロシアが世界の秩序やアメリカのリーダーシップに対する非常に深刻な脅威になっていることを明示しました。そして次々と対中強硬策を打ち出したのです。
これが米中関係の大きな流れで、歴史的に見るとトランプ政権だけが共和党として非常に強硬な政策を取っています。これは民主・共和を問わず、この流れがアメリカの一大国策として定着しつつあるからだと私は思います。非常に注目すべき現象です。
●米中関係は「ポイント・オブ・ノー・リターン」を通り過ぎてしまった
―― 今のお話で日本人として大いに迷うところが、以前「テンミニッツTV」で中西先生に講義いただいた、「アメリカは必ずしも一枚岩ではない」という話です。今の歴史的経緯を見ても分かるように、親中の流れがあり、片や反中の勢いもある。これがどう振れるか分からないので、日本人としてはどのように行動すべきか、判断に迷うところもあります。
トランプ政権で大きく反中に変わりましたが、大統領選挙の結果によっては、また親中の勢いが強くなるかもしれない。いやいや、そうではないなど、いろいろな見方があると思いますが、大きな流れとして、どのように見ていらっしゃるでしょう。
中西 最初に申し上げたように、今年2020年という年は、米中関係にとって歴史的な分水嶺の年というのが質問への重要な答えだと思います。今アメリカの米中問題の専門家たちが口を揃えて言うのが「ポイント・オブ・ノー・リターン」(帰還不能点、もはや後戻りできない段階)を通り過ぎたというものです。米中関係が、やはり歴史的に変わってしまったと。これが2020年の大きな意味であると、ワシントンの政策研究者も最近はよく口にします。
民主党政権になろうと共和党政権になろうと、基本的にアメリカが求めているものは世界の覇権であり、リーダーシップを握り続けることです。その中でアメリカの繁栄と世界の民主化と市場経済という現状秩序を守っていく、あるいは進めていく。これがアメリカの基本的に求めるものです。
●中国で起こり始めた外資排除の動き
中国、特に習近平主席の就任以来、中国が目指しているものは、ことごとくこれに対するアンチです。市場経済についても「国家資本主義」という考え方で、国営企業を中心に中国は経済成長できるんだと。
今、中国で起こっているのは、外資を中国から追い出すというもので、もうこの段階に来つつあります。中国に進出しようとする外資を、むしろ中国当局が来させないような形になっている。中国は独自の国内市場で、アメリカを追い越す経済力を持つようになれるという段階に来ていると思います。
民主化は習近平体制下では、絶対にあり得ません。さらに全体主義化していく傾向も、はっきり見て取れます。あるいは南シナ海や東シナ海に進出して、アジアからアメリカを軍事的、戦略的、さらには政治的、経済的にも追い出す。これを明確な国策として固定化したのが、習近平体制だと思います。
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