●キューバ危機の時、ド・ゴール大統領が真っ先に言ったこと
中西 ここで思い出すのが、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領の言葉です。1962年にアメリカとソ連の間で有名なキューバ危機が起こります。アメリカは核戦争の危機をかけても、キューバに配備されたソ連の核ミサイルを撤去させようとした。アメリカのジョン・F.ケネディ大統領は、ギリギリの生存の危機をかけて、この問題に乗り出したわけです。決定的な、世界史的な危機だったと思います。
それまでフランスは、アメリカと国益の細々とした問題では必ずしも一致しませんでした。ところが、この米ソ衝突の一歩手前の時、真っ先にド・ゴール大統領が言ったのは、「われわれは真っ先にどの国よりも早く、明確にしたい。何があってもアメリカの同盟国として、徹頭徹尾アメリカを支持する」というものでした。
この発言によって、この危機が本当の破局に至らないための役割をフランスは何があっても果たすと、しっかりと世界に宣言したのです。
―― それはとても大事な動きですね。
中西 これは非常に大事なことで、「ド・ゴール主義」「ド・ゴール外交」という言葉があるように、アメリカとは何から何まで一致する必要はない。ましてアメリカに追随する外交は、国の威信としても、国益としても望ましくない。これはどの国でも当然、前提とする考えで、フランスはそれを実行して、非常に強くアメリカにもの申す外交を演じていた。これが「ド・ゴール外交」でした。
ところが、本当の危機が迫ってきたら、フランスはアメリカの同盟国として曖昧な立場は取らない。同盟国としての誠実さ、真実の心が同盟関係の一番の基盤であると相手に示し、世界に示し、ソ連にも示した。それによってソ連は、アメリカの同盟国を分断することはできないと悟り、アメリカに譲歩する。つまり危機を回避する必要があるという決断に至ったのです。
このように考えると、日本が取るべき立場は明快です。日本あるいはアジアの平和と繁栄を確保するために、現状秩序を維持するという立場に立って、アメリカの同盟国として日本の国家としての真のあり方は、ここにあると示す。これは必ず中国にも通じます。お互い勝負に出る、あるいは紛争を起こしても展望はないことを示す。それが抑止力ということですが、そういう方向性、選択を日本は明確に持つべき時期に来ているのではないでしょうか。
●「ヨーロッパより前、アメリカより後ろ」というスタンスで
―― あとはヨーロッパやロシアといった国々の動向もきちんと理解しておかないと、日本のスタンスを間違える可能性がありますね。
中西 間違えると大変なことになります。ここではっきり言えることは、中国に対するスタンスとして、日本はアメリカの前に出て、アメリカよりも強い対中姿勢を取ることはすべきではありません。
アメリカはやはり最大で、いろいろなことをやるでしょう。大統領選挙も影響するかもしれません。また、トランプ政権の対中政策は、非常に強硬で過激すぎるところもあります。ここは日本側から静かな外交で、アメリカ側にいちいちチェックを入れていく必要があります。
しかし、アメリカの後ろに立っていればいい時代でもなくなっています。オーストラリアもインドも、そして多くのASEANの国、イギリスやEU諸国も、中国に対する姿勢を徐々に、あるいは急速に強めつつあります。そういうときに日本が、これらの国々よりも後ろに行ってしまう、あるいは逆に「中国と近いのではないか」「日中間で何か分からない話し合いのパイプがまだ動いている」などと思われることは許されません。こういう危険性が非常に今、出ていると思います。
端的にいうと、アメリカより前に出ることはあり得ないけれど、ヨーロッパより後ろに行ってはダメです。ヨーロッパ諸国は対中問題では、日本とは脅威の度合や利害の衝突の度合がまったく違います。
―― (ヨーロッパ諸国は日本よりも距離的に)遠いですからね。
中西 ええ。同じことはインドやオーストラリアについても、ある程度言えます。日本は真正面に位置する国で、尖閣諸島の問題もあります。台湾海峡に近い南西諸島の問題もあります。
だから日本はアメリカ側に立つ。ただしアメリカよりも強硬な姿勢が可能でないことは誰でも分かります。
大事なことは、ヨーロッパやオーストラリアのような国々よりも後れを取るといいますか、さらに曖昧な立場に立つことは絶対に許されないということです。日本外交の大きな選択を誤ります。その意味ではド・ゴールの故事に倣い、アメリカの側に立つ姿勢を終始明確にしておくべきです。
―― アメリカよりも前に出てはいけないが、ヨーロッパよりも後ろに行ってはいけないというのは、日本にとっては非常に分かりやすいスタンスです...
(1961年、エリゼ宮殿にて)