●曖昧路線から反中外交に大転換したオーストラリア
―― 大英帝国の流れでいうと、アジアにはオーストラリアがあります。オーストラリアはこの間、どちらかというと親中と反中で揺れ動いていました。それが香港問題等々を受けて、態度がある程度、固まってきていると見てよろしいですか。
中西 オーストラリアこそ、まさにコロナが親中あるいは曖昧路線から、反中外交に大転換させた大きな要因だったと思います。2020年3月にオーストラリアのスコット・モリソン首相が記者会見で、「コロナの発生源に関する第三者の独立した調査が必要」という声明を出しました。特に中国を名指ししたわけではありませんが、それに対し中国は非常に激しく反論して、「そういう非友好的な発言は許せない」と一挙に激情した反応を示しました。
それがオーストラリアからの食肉の輸入停止という、非常に強い措置になりました。またオーストラリアから大量に輸入していた大麦の関税を一挙に80パーセントに上げる。これはもう禁止的関税です。それからオーストラリアワインの最大の買い手は中国で、これも輸入を許さない。中国の観光客がオーストラリアに行くことも、今後は許さない。そういう矢継ぎ早の強硬手段に打って出たのです。
オーストラリアにとって最大の貿易相手国は中国ですから、普通ならここでオーストラリアはへこむはずです。ところが今回はへこまず、一挙に「受けて立つ」と非常に強い反応を示した。「なぜ中国がこんな反応を示すのか、われわれは理解できない」と跳ね返し、返す刀でインドとの接近を始めます。
日米豪印の4か国が手を結べば、インド太平洋地域で中国の進出を抑止できると、これまでよく言われていました。日本の政治家やアメリカ当局も、そうしたインド太平洋戦略構想を口にしていましたが、従来オーストラリアもインドも中国と表立って敵対関係になりたくない気持ちが強くありました。そのためこの2国は安全保障上のいろいろな取り組みにも、日米側にあまり寄ってきませんでした。
ところが2020年6月、7月、オーストラリアは中国との関係悪化を受けて様子が変わってきました。インドも中国との国境地帯で軍事的紛争が起こり、インド兵から十数名の死者を出しています。中国が非常に強い姿勢で国境で事を構えようとしてきたのを見て、インドは「これは大変なことになる」と、脅威感を非常に高めま...