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アメリカの過ちは冷戦の勝利で中国に幻想を抱いたこと

歴史から見た中国と世界の関係(3)戦後の中国に夢を抱いたアメリカ

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
ニクソン訪中
(1972年、中南海で毛沢東主席と握手するニクソン大統領)
第二次世界大戦での国民党の態度に幻滅したアメリカは、清廉潔白な共産党こそ民主主義の担い手という新たな夢を見る。ところが国民党との戦いに勝利した共産党政権はソ連に接近し、アメリカは中国を徹底的に敵対視する。その後、冷戦に負けたソ連が崩壊し、グローバリゼーションの時代になると、「豊かになれば中国は民主化する」という夢を再び抱くようになる。(全10話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:49
収録日:2020/08/21
追加日:2020/10/05
タグ:
≪全文≫

●「反中国」を「親中国」に変えたニクソン訪中


―― 前回のことと関連しますが、毛沢東の登場で米中の関係が一旦途切れるかというと、第二次世界大戦中、アメリカはかなり中国共産党に入れ込んでいます。このあたりの関係は、どうなのでしょう。

中西 結局、日本との戦争で蒋介石の指揮する国民党政府側が、熱心に戦争に協力しなかったからです。日中戦争を戦っているはずの蒋介石が、実は戦後のことを考えて共産党を攻撃したりしている。アメリカは莫大な援助を蒋介石側に与えているのに、それでみんな私腹を肥やして腐敗している。そういう国民党の姿に、アメリカ人は少しずつ幻滅していくのです。それに引き換え共産党は清廉潔白で、共産党こそ本物の民主主義の担い手になるのではないかと期待した。

 これはその後の研究の結果により、エドガー・スノーやアグネス・スメドレーといったアメリカ人の親中派、もっといえば中国共産党といろいろな形で結びついた評論家やオピニオンリーダーが、アメリカの世論にそういう働きかけをしたことが分かっています。実は真実とは懸け離れた訴えにより、「未来を代表するのは共産党で、蒋介石は過去の軍閥の1人ではないか」といった国民党への幻滅感が、日本との戦争終末期のアメリカ、特にワシントン周辺で強くなっていくのです。

 最終的に毛沢東の共産党が政権を取り、蒋介石を台湾に追いやります。これだけならまだ良かったのですが、毛沢東は返す刀でソ連のスターリンに接近します。「中ソ一枚岩」という格好で、冷戦で激しく対立するソ連陣営に自ら与していく。

 ここでアメリカは、「ソ連の衛星国としての中華人民共和国」という見方を非常に強めていきます。これがマッカーシズムです。「共産主義がアメリカに入り込んでくる恐れがある」という反共運動と結びつき、共産党の中国を徹底的に敵視する風潮が強くなるのです。

 ところがその後、よく知られるニクソン訪中があります。これまで中国を「レッド・チャイナ」と言って敵視していた。当時はベトナム戦争中でしたから、特に当時の民主党政権は反中国でした。それが共和党のニクソン政権に代わって、一気に親中のアメリカ外交に転換していきます。

 アメリカの政党政治の歴史を見ると、どちらかといえば共和党は親中に傾きやすい側面があります。ニクソンだけでなく、日本でいえば大正時代に共和党政権が12年間続き、その時も日本と敵対し、アメリカは中国に入れ込んでいきます。満州事変に至る過程を見ても、やはり共和党は親中です。

 これが民主党政権になると、中国から距離を置く。ベトナム戦争中のケネディ政権もジョンソン政権も民主党政権で、反中です。朝鮮戦争をやったのも民主党政権で、中国を軍事的な敵として戦い抜いたのです。


●冷戦の勝利が、中国への幻想を復活させた


―― というと、フランクリン・ルーズベルトだけが、民主党の中ではちょっと変わっていたのでしょうか。

中西 ルーズベルトはむしろ親中国というより、「ドイツとの戦争を勝ち抜かなければならない」「日本との戦争を勝ち抜かなければならない」という意識が強くありました。あるいは「日本やドイツの侵略を抑えていかなければならない」という意識が1930年代初めからあったから、ルーズベルトはやむを得ず親中国になった。

 一方、親ソ連の立場については、フランクリン・ルーズベルトはもう少し思想的な背景があったと思います。ニューディール政策などで、ソ連に親近感を持っていた。しかし、中国共産党に対しては、必ずしもそうではありませんでした。

―― 今、ニクソンショックの話がありましたが、これによりアメリカと中国の距離感を一気に詰め、ソ連との同盟から引き剥がした。それで最終的にアメリカが冷戦に勝利したという認識でよろしいですか。

中西 その通りだと思います。ただ、そこにアメリカの大きな過ち、蹉跌があったのです。ソ連が崩壊して世界がグローバリゼーション、アメリカ型の民主主義に向かい、市場経済の世界が一体になっていく。国境を超えて、いろいろな経済・政治のシステムが一体化していくという見通しが、アメリカに非常に強くなる。日本でも、そのように言った人がたくさんいました。これが中国に対する幻想を、もう一度アメリカの中に植え付けていくのです。

 中国経済が市場経済化してますます豊かになれば、民主主義の方向に向かっていくのではないか。100年近く前、アメリカが中国に抱いた幻想と同じ構造になっていくのです。「そのときのモデルは、冷戦に勝利したわれわれアメリカだ。中国はアメリカ型のグローバル市場経済の中に入る。中国13億人の民が豊かになれば、必然的に民主主義になる」。そういう構造は20世紀の初めと同じです。中国に対するアメリカの夢です。

―― その夢が崩れていく...
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