テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

プーチンが模索しているロシア外交の「息継ぎ戦略」とは

歴史から見た中国と世界の関係(8)中国に接近するロシアの意図

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
反中路線を取る国々が増える中、最も態度がはっきりしないのがロシアである。基本的に中ロ同盟は結束を強め、香港国家安全維持法への非難決議に対してもロシアは反対の立場を取った。とはいえ中国と何千キロも国境を接するロシアは、中国の力が強大になりすぎるのも避けたい。今は対中接近する時期だが、長期的には外交方針を大転換する。その時期を見定めており、もっか考えているのはアメリカの力を削ぐことと思われる。(全10話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:07:37
収録日:2020/08/21
追加日:2020/10/19
タグ:
≪全文≫

●香港国家安全維持法の非難決議に反対したロシア


― 今ベラルーシとロシアの話が出ましたが、プーチン政権は中ロの軍事同盟的な発言もしています。中国とロシアの関係はどうでしょう。

中西 ここは一番興味深いところで、一番はっきりしません。アメリカはもちろん旧英連邦諸国も、おそらくインドネシアをはじめとするASEAN諸国も、あるいはインド、豪州、さらにはスイス、イスラエルなども含めて、これまで中国との経済関係を重視して、きちんとした態度を示せなかった国々も、スタンスをかなりはっきりさせ始めました。あるいは、「そろそろ決めなくちゃいけない」という声が聞こえ始めてきました。日本もその中に入るかもしれません。

 こうした国が増えている中で、ロシアだけが一番微妙な立場にあります。確かに去年(2019年)までは中ロ同盟の結束を強めていく流れにありました。また香港国家安全維持法でも、ロシアは中国寄りの立場を示しています。

 イギリスが6月30日に国連で動議した国家安全維持法に対する非難決議に対し、加盟国の中で賛成した国は、イギリスをはじめ27カ国です。日本ももちろん、入っています。ところが反対した国は53カ国で、こちらのほうが数が多いのです。大半は中国が大枚の援助をしているアフリカの国で、あるいは中東や中南米の必ずしも民主主義ではない体制の国です。

 ロシアも明確に、中国の立場を支持する方向に動きました。今のロシアの方針は、けっして民主主義とはいえない、非常に全体主義の流れが顕著です。だから、中国が中長期的に強大化することは、ロシアにとっては困ったことです。何千キロもの国境を接する隣国・中国が、アメリカ以上の強大国になるのはロシアにとって悪夢です。したがって、そうなる可能性はどこかで断ち切りたい。

 しかし、ロシアは今、大変苦しい状況にあります。ウクライナに対する侵攻への制裁として、西側諸国から経済制裁を受け、経済的に非常に困った立場にいます。また、全体主義的傾向を成しているプーチン政権は、西側の国々の風当たりが強くなっています。あるいはエネルギー問題でも中国とは持ちつ持たれつの関係で、中国に依存していく度合が非常に高くなっています。

 これらを見定めたロシアは、「今は対中接近をする時期」と考えていますが、中期的には見切りをつけ、中国の力を削ぐ方向に向かう勢力と結び、外交の転換を図るでしょう。これを外交革命といいますが、親中から反中というこの大転換をロシアがいつ行うか。このタイミングが、日本外交にとっても非常に重要です。中長期的な意味で、です。


●「息継ぎ戦略」を模索するプーチン・ロシア


中西 今のロシアは、まだまだ中国と離れる余裕がありません。中国のジュニアパートナーで、しばし雌伏の時代を続けざるを得ない。今のロシア人の思考は、次のようなものでしょう。

「アメリカと本格的に対峙し始めたら、中国は壁にぶち当たる。われわれはアメリカと対峙するが、中国のような全面対立する必要はない。一番強い風当たりは中国のほうに向けさせ、ロシアのブリージング・スペース(息継ぎの空間)を広げよう」。

 これは、ロシア外交によくある一つの「息継ぎ戦略」で、これをプーチンは模索していると思います。

 ですから、これ以上積極的に中国支援を強めることはしない。かといって、中国の力を削がないと心配だからと、早とちりして反中に足を向けることもしない。それをしたら中ロ両方とも、アメリカの圧力で共倒れになってしまいます。

 もっとアメリカが弱くなったときに、その戦略に転換する。そのためにアメリカとは結ぶ。そういう中期的な議論が、ロシア人は好きです。ドイツ人もこういう議論が好きですが、ロシア人も好きです。

 明治時代に中江兆民が書いた、『三酔人経綸問答』というものがあります。その1つである、地政学的に非常にリアリストでビスマルク的な議論が、今ロシアの国内で交わされていると私は見ています。

―― ロシアはまだどちらに転ぶか分からない、様子を見ているということですね。

中西 中長期的には、ですね。短期的にはアメリカに近寄ることはあり得ず、中国と歩を一にして進むと思います。アメリカの力を削ぐことが、今のプーチン・ロシアの大きな戦略目標ですから。
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。