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米中関係の今後における3つの誤謬と中独関係の行方

歴史から見た中国と世界の関係(7)ドイツの親中路線は変わるか

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
日中戦争の時代、蒋介石に軍事顧問を送るなど、中国と独特の関係にあるドイツだが、やはり対中政策が変わりつつある。中でもマース外相は、「中国の側に立ってものを言うことはできない」といった発言をしている。メルケル首相は従来の親中路線を崩さないが、ドイツの世論も中国から離れる方向に向かっている。ただしロシアがベラルーシに軍事介入すれば、ドイツの反中路線はうやむやになる可能性もある。(全10話中第7話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:41
収録日:2020/08/21
追加日:2020/10/19
≪全文≫

●米中関係の今後については3つの誤謬がある


―― ではヨーロッパの大きな問題として、ドイツと中国の関係はどうでしょう。ドイツは日中戦争の時代から、蒋介石に軍事顧問団を送るなど、独特の中国との結びつきがあります。この間、経済的にも深いつながりをつくってきたと言われています。それが、ここで変わってきたのでしょうか。

中西 はい。今、日本あるいは世界の一部でも、米中関係の今後について3つの誤謬があります。1つ目は、先ほど申し上げた「今は米中関係は非常に悪化しているけど、これはアメリカの大統領選挙があるからで、大統領選挙が終われば元に戻る」というものです。これは間違いで、アメリカの対中政策は「全米」、すなわち「オールアメリカ」という形で歴史的に大きく転換しつつあります。

 2つ目の誤謬は、「アメリカは反中に転換したけれど、ヨーロッパはまだ親中、あるいはどちらつかずの等距離外交に立っている。特にドイツはそうだ」という見方です。そこは日本のヨーロッパ・ウォッチャーがはっきりと切り出さず、いろいろな情報が必ずしも伝わってこないことがあるでしょう。あるいはヨーロッパの対中政策を今後どう占えばいいか、判断できる深みのあるヨーロッパ分析をするウォッチャーが、日本には残念ながら不足している気がします。

 そして3番目の誤謬は、「習近平政権は盤石である」という中国国内の政治基盤に対する見方です。実は習近平体制は、それほど盤石ではなくなっています。特にコロナ禍と米中対立の激化により、あるいは中国経済が今後たどるであろう、いろいろな意味での後退、こういうことを踏まえれば、習近平政権の今後は、よくよく注目する必要があります。

 以上3つの誤謬のうち、質問の答えになるのが2番目の話です。


●ドイツの外相発言で分かる対中政策の変化


中西 ドイツも今や対米貿易より対中貿易のほうが重みを増していますが、今年(2020年)に入ってドイツの世論がかなり大きく変わってきました。アンゲラ・メルケル首相の足元でも与党の政治家たち、あるいはメルケル首相やさらにその後の後継者と目されているハイコ・マース外相の発言を見ると、それが分かります。

 特にマース外相は6月の記者会見で、「もはやドイツは中国の側に立ってものを言うことはできない。われわれにとって自由、民主主義という価値観の問題を無視して、この問題にアプローチすることは許されない。そのように時代の転換が起こりつつある」とはっきり言い放ちました。ドイツの対中政策のニュアンスが従来と変わったとして、非常に注目されました。


●ベラルーシ問題でドイツは中国どころでなくなる可能性がある


中西 一方、メルケル首相は「中国の問題は価値観に関わる問題だから、われわれは意識をしっかりと持つ必要があるが、中国との対話のパイプはなくしてはいけない」というニュアンスで、従来の立場に踏みとどまっています。このあたりは、まだ微妙なところがあります。

 また、政権外の世論を見ると、ドイツの保守系大手メディアである(アクセル・)シュプリンガーのCEOの発言は、もっとはっきりしています。夏頃に「われわれはこの問題で、米中どちらを取るかで迷うことは許されなくなってきた」といった発言をして、アメリカのメディアにも寄稿しました。これは大きいと思います。

 またドイツ代表としてヨーロッパ議会で重きを成している政治家が、「中国はヨーロッパを失った」と言いました。これもやはり重い発言です。「今までヨーロッパは、アメリカよりも中国に対する理解を示していた。われわれヨーロッパ議会もそういう努力をしていた。それなのに、どうしてこんなに世界の親中派の神経を逆なですることをするのだろう」といった、一種の嘆き節も言っています。

 「中国はヨーロッパを失った」という発言が広がったために、ヨーロッパ議会は「香港国家安全維持法は、明らかに国連人権規約に違反している」と国連に提訴しました。さらに「中国に対する制裁をしなければならない」とまで、ヨーロッパ議会は決議しました。

 EUの政府に当たるヨーロッパ委員会は、そういう路線から1、2歩距離を置いています。こちらは執行機関で、迂闊には動けませんから。しかし、ヨーロッパ議会は世論の代表であり、世論がここまで変わったことを世界に示しています。こういう視点を加える必要もあります。

 ドイツがこの先、中国に対するアプローチをどう変えていくかは、必ずしも現時点で「こうだ」と断定的に言えません。特にロシアが今、ベラルーシ問題で非常に混乱しています。ベラルーシで民主化運動が起こり、アレクサンドル・ルカシェンコの独裁体制が揺らいでいます。ここにプーチン政権のロシアが、もしかしたら軍事介入するかもしれない。

 EUとロシアの間に立ってい...
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