●米中関係の今後については3つの誤謬がある
―― ではヨーロッパの大きな問題として、ドイツと中国の関係はどうでしょう。ドイツは日中戦争の時代から、蒋介石に軍事顧問団を送るなど、独特の中国との結びつきがあります。この間、経済的にも深いつながりをつくってきたと言われています。それが、ここで変わってきたのでしょうか。
中西 はい。今、日本あるいは世界の一部でも、米中関係の今後について3つの誤謬があります。1つ目は、先ほど申し上げた「今は米中関係は非常に悪化しているけど、これはアメリカの大統領選挙があるからで、大統領選挙が終われば元に戻る」というものです。これは間違いで、アメリカの対中政策は「全米」、すなわち「オールアメリカ」という形で歴史的に大きく転換しつつあります。
2つ目の誤謬は、「アメリカは反中に転換したけれど、ヨーロッパはまだ親中、あるいはどちらつかずの等距離外交に立っている。特にドイツはそうだ」という見方です。そこは日本のヨーロッパ・ウォッチャーがはっきりと切り出さず、いろいろな情報が必ずしも伝わってこないことがあるでしょう。あるいはヨーロッパの対中政策を今後どう占えばいいか、判断できる深みのあるヨーロッパ分析をするウォッチャーが、日本には残念ながら不足している気がします。
そして3番目の誤謬は、「習近平政権は盤石である」という中国国内の政治基盤に対する見方です。実は習近平体制は、それほど盤石ではなくなっています。特にコロナ禍と米中対立の激化により、あるいは中国経済が今後たどるであろう、いろいろな意味での後退、こういうことを踏まえれば、習近平政権の今後は、よくよく注目する必要があります。
以上3つの誤謬のうち、質問の答えになるのが2番目の話です。
●ドイツの外相発言で分かる対中政策の変化
中西 ドイツも今や対米貿易より対中貿易のほうが重みを増していますが、今年(2020年)に入ってドイツの世論がかなり大きく変わってきました。アンゲラ・メルケル首相の足元でも与党の政治家たち、あるいはメルケル首相やさらにその後の後継者と目されているハイコ・マース外相の発言を見ると、それが分かります。
特にマース外相は6月の記者会見で、「もはやドイツは中国の側に立ってものを言うことはできない。われわれにとって自由、民主主義という価値観の問題を無視して、この問題に...