●中国を抑えるためのオフショア・コントロール
小原 現在の海の状況も含めて、中国から見たシーレーンの重要性は限りありません。中国経済が大きくなり、世界と一体化し、相互依存が広がるとともに中国自身の国益が世界に広がっていく。そうしたものを守っていくために、海軍力は非常に重要になってきました。
「一帯一路」は、「陸と海のシルクロード」を自称しています。この資料に出ていますが、多くの港湾を中国が押さえていって、そこを拠点にシーレーンを通じて影響力を伸ばしていく。ヨーロッパにもつながろうと深い関心を持ち、ギリシャのピレウス港やイタリアの港を借り受けるために、現地との関係を強めつつあります。
習近平国家主席も、先日ギリシャを訪問していました。港をつないでいって、以前言われていた「真珠の首飾り」として各地の港を押さえ、ここから出て行こうとしているのです。
しかし、海洋の覇権を握っているのは実はアメリカだということ、そのアメリカがそこで何をするかということを考えれば、いざ中国との難しい状況が何か持ち上がって、局地戦のようなものが起きた場合、出てくるのはオフショア・バランシングではなく「オフショア・コントロール」だろうと言われています。
これは何かというと、こうしたチョークポイントをアメリカが押さえてしまうことです。そうすると、中国はエネルギーや資源を輸入することが難しくなるので、手を引かざるを得ない。そのように、戦わずして中国を押さえ込んでいくのが、オフショア・コントロールという概念です。
―― はい。
●圧倒的な「アメリカインド太平洋軍」と中距離弾道ミサイル
小原 海はこのように非常に大事なわけですが、トランプ大統領は軍の名前にインドを付け足して「アメリカインド太平洋軍」と変更しました。これに対して、中国は空母4隻保有体制を目指したり、「A2/AD(Anti-Access/Area Denial: 接近阻止/領域拒否)」戦略を取ったりしています。
今戦争をすると、まだ圧倒的にアメリカの軍事力のほうが強くて中国はかなわない。例えば空母部隊が第1列島線の中に入ってくる。南シナ海でも「航行の自由作戦」を含めてやっていますが、この中に入ってくるアメリカ軍を寄せ付けないようにするというところからすれば、軍事力は非常に非対称だと言わざるを得ない。
そこで中国は、アメリカとは違う武装兵器、例えば弾道ミサイルを導入しています。台湾の対岸には大変な数の中距離弾道ミサイルが置かれていて、1995-96年にかけての第三次台湾海峡危機においては、台湾の北と南の沖合に撃ち込んで、李登輝総統の選挙に対する威嚇を行いました。
―― 威嚇をしましたね。
小原 あの事件の時に用いられたのが、中距離弾道ミサイルです。冷戦中、アメリカとソ連の間で交渉が行われ、中距離核弾道ミサイル(INF)の核弾道戦略を規制し、廃棄する条約が締結されました。ところが、冷戦はまさに米ソ間の問題であったため、中国は入っていませんでした。中国の中距離ミサイル建造はその間に進められ、今ではもう2000発以上持っているのではないかと言われます。
一方、アメリカは条約に縛られてこれを持っていない。そこで、トランプ大統領は、2019年にこの条約から離脱し、条約は失効しました。その後、アメリカはこれを造り出し、第1列島線に置きたがっていると言われます。おそらく日本もその候補地に入っているでしょう。
●中国が南シナ海で発射した「空母キラー」の脅威
小原 そうしたいわくつきの中距離弾道ミサイルを、中国は先日、南シナ海に打ち込みました。海南島と西沙諸島の間の海域です。ここにはアメリカ海軍もいたわけで、彼らに対する一種のメッセージと見られています。
―― はい。
小原 これを撃ったミサイルは、東風と書いてDFという「DF-21(東風21号)」や「DF-26(東風26号)」などです。「空母キラー」とも呼ばれていて、これを一発受けると空母は沈んでしまいます。さらにDF-26の弾道ミサイルは距離が長くなり、グアムまで飛んでいきます。グアムはご存じのように、太平洋におけるアメリカの軍事拠点です。
こうした弾道ミサイルを用いて、アメリカ海軍を寄せ付けない。こうしたミサイルは、潜水艦から発射することにより、さらに捕捉が難しくなります。南シナ海はそのような潜水艦が行動する海域で、海南島にもそのための基地があります。そこから出て行った潜水艦が南シナ海からアメリカに向けて撃てば、発射時の捕捉はなかなかできません。こうしてアメリカに対する抑止力を高めていくことができるわけです。
こうした海でのせめぎ合いは非常に重要です。今、一帯一路に対して日本とアメリカが...