●米大統領選挙の結果次第で外交政策はどう変わるか
小原 今年(2020年)はいよいよ米大統領選挙ということで、米中関係がどうなっていくのか、ということに対する注目は熱さを増しています。もちろんトランプ大統領が続投になれば、これまで4年間で彼が行ってきたことを踏襲していくわけですから、改めて議論はしません。問題は、ジョー・バイデン大統領になったとき、何が違ってくるのかということです。
彼のウェブサイトから抜いてきた外交政策の中には、"Renewing democracy at home"と言及されています。これは非常に大事なことです。
本シリーズでは、新型コロナ感染症対策によって民主主義が直面している課題について、ずっとお話ししてきました。自由や民主と安全についての議論を行ったように、アメリカでは社会の分断や格差の問題が、コロナの中で先鋭化してきています。
そして、なぜ権威主義が世界における勢いを増しているのかを考えると、それはアメリカの民主主義そのものが力を失い、迷走して、うまく機能していないからではないかと考えられます。バイデン氏が「自分が大統領になれば、そこをしっかり立て直す」と言っているところは、非常に大事だと思うのです。
―― 民主主義を立て直すと言っているのですね。
●トランプ政治で分断されたアメリカを立て直す
小原 トランプ政治というのは本来あるべき民主主義ではなくて、ポピュリズムだと彼は言っています。「自国第一」というのは「自分主義」で、自分のことしか考えていない。それが社会を分断しようとしていて、分断によって敵と味方がつくられ、味方が糾合される。まさに「敵がいるから味方」ということで、共産党政権などでもそうですが、味方と敵で社会を分断することによって自分たちの結束を強めるという手法です。
いわゆるトランプ支持の人々を「岩盤支持層」といいますが、社会の分断を先鋭化すればするほど岩盤は強くなります。その内部では、何が起きても自分たちの味方を守るのだという傾向が強まります。
「何をやってるんだ。あんな政治では、俺たちは全然、成果を得ていないよ」「生活、よくなっていないよ」と言っていたラストベルト地帯の人たちであっても、中国や民主党のような敵がいるという事情の前では結束してしまうわけです。
そのような対立を融和していき、互いに寛容な精神によって多様性を受け入れながら、統一できる社会をつくっていかなければいけない。それがやはり民主主義の強さであり、良さだと思います。そうしたものを取り返そうというのが、バイデン氏の主張です。もう少し広げていくと、これはまさに自由世界というものをもう一度立て直そうとすることです。
トランプ氏は、同盟国であろうとパートナー国であろうと貿易戦争をしかけるようなところがあります。つまり、権威主義体制あるいは自分たちにとっては潜在的な敵であるような国、さらに同盟国をほぼ同じように扱っています。「トランザクショナルインタレスト」といいますが、それは要するに短期的な利益があるのかどうか。目先の利益が得られるのかどうかです。
長期的に、グローバルな秩序をどうすることによってアメリカに利益があり、国際社会に利益があるのかといったことは考えないわけです。バイデン氏はそういったことはもうやめようと言っています。
●中国にとって本質的に怖いバイデンの動向
小原 これからは、日本も含めて旧西側の結束ということを大事にしていこうとバイデン氏は言っており、民主主義サミットなどということも提唱しています。それをもう少し進めれば「拡大G7」、さらにいうと「民主主義同盟」のようなものになっていくわけで、そうしたものが再構築されていくことを、中国は多分一番恐れているのだと思います。
「アメリカファースト」のようにトランプ氏一人が勝手に動いてくれる分であれば、中国にとってはむしろ都合がいい。イタリアなどはG7でありながら一帯一路に参画していくような動きを見せています。中国のほうは同盟を分断して、中国の権威主義体制が生き残りやすい、あるいはコンパクトになるような秩序をつくっていこうとしています。そういう意味でバイデン氏の動きは、中国にとって本質的に怖いものです。
最後に書いてありますが、グローバル・イシューも含めて、トランプ大統領はとにかく破壊屋だったわけです。こういう国際的なアジェンダに取り組んで何かをつくりあげるのは、非常に大変なことです。時間もコストも莫大にかかります。
それに対して、壊すほうは非常に簡単です。壊すことで何かを動かそうとするトランプ氏と違って、本来の外交に立ち返ろうということになると、まさに多国間主義や国際協力によって、感染症やサイバ...