●南シナ海で進む中国による現状変更
小原 現在、注意しないといけないのが、南シナ海と台湾の問題です。それぞれ別の機会に取り上げて説明するような大きなテーマですので、今日はあまり詳しく触れませんが、ご覧になれば分かるように、南シナ海には領有権を主張する国ぐにがあり、それらが対立する中、力の強い中国が現状を変えるべく一方的に変えるような行動をしています。それは、今回お話ししたようにアメリカがそれに反撃ができないよう、低リスク・低強度の形で行うわけです。
アメリカは、当事国ではないので領有権は主張していません。中国は「当事国でない国は勧誘するな」という。かつ中国からすれば、ASEAN全体と議論していくよりは1対1でやっていくほうが圧倒的に力が大きいですから、バイで交渉したいわけです。しかしASEANの、とくに当事国からすれば、ASEANと言うものでボリュームになって、「ASEAN10」として中国に向き合っていくほうが交渉力は高いわけです。
―― そうですね。はい。
小原 こうしたせめぎ合いがある中、「コード・オブ・コンダクト(行動規範)」というようなものをつくって、平和的に問題を解決しようという動きが、これまでずっと見られてきました。
それを本当に拘束力のあるものにしようということについては、中国は言葉ではそう言いつつも、なかなかそこまではいっていません。中国からすれば、その内容については自分たちの現状を認めさせるような形にしたい。そのせめぎ合いが、今ここで続いているということです。
アメリカ側は、先ほど触れた「航行の自由作戦」を実施して、法の支配つまり国際法に中国が依拠することを求めます。アキノ政権の際に国際仲裁裁判所が出した結論など、中国は「もう紙くずだ」と拒否しますが、しっかり守るべきだというのです。中国は国連海洋法条約の締結国ですから、それによる拘束を受けるのだという立場は、日本も同様です。
●一歩踏み込むアメリカの姿勢と尖閣諸島への波及
小原 また他方、国際法準拠を強調するアメリカでは、マイク・ポンペオ長官が今回初めて「アメリカは領有権の問題に対しては立場を明らかにしない」と言ってきています。尖閣諸島についてもそうで、領有権について「日本のものだ」とは言っていません。
―― これは行政権でしたか。
小原 いや、施政権ですね。沖縄返還の時に尖閣諸島も一緒に返還されたのだという説明を、日本はずっとしてきました。それはなぜかというと、「施政権を返還する」という言葉がそこにあって、施政権という言葉がまさに尖閣諸島にも及んでいたからです。
そこには日米安保条約の5条が適用されるわけで、ジェームズ・マティス前国防長官などもはっきりと、「これは適用されます」と言っている。実際上、ここで何かあれば日米安保条約が適用されるわけです。
尖閣諸島を有効に確保していきたい日本からすれば安保条約は非常に大事なものです。ここを確認し、対外的にもはっきり示していくことが、中国との関係でも大事だと思います。いずれにせよ、そうした南シナ海における領有権の問題に、アメリカとして初めて言及したのがポンペオ長官です。
―― はい。
小原 これはやはり仲裁裁判の通りであり、中国の行動は違法だといって、その辺はかなり一歩踏み込んできたわけです。そういう意味もあり、ここでの対立が高まっているということです。
●習近平国家主席の「中国の夢」で最終的に狙うのは台湾統一
小原 台湾についての経緯をスライドにまとめました。特に習近平国家主席になってからは、2019年1月に「習5項目」というものを出して、「武力の使用を放棄することを約束せず、あらゆる必要な措置を取る」と言っています。それまでの「反国家分裂法」では「非平和方式」という言葉を使っていたのが、ここでは「武力の使用」という言葉に替えられています。
―― 言葉がエスカレートしたということですね。
小原 そのように深読みすることもできなくはないということですね。つまり、いつまでも先延ばしはできないというのが、彼の立場です。
それは何を意味しているかというと、自分の目の黒いうち、つまり自分が最高指導者のうちに、なんとかこの台湾問題を解決したい。つまり、彼が掲げる「中国の夢」の中で、最終的に実現されるべきなのは台湾統一なのです。
香港については、一国二制度で解決したので、台湾も同様に平和的な方式で統一する。だが、もし本当にそれがならなければどうなるのか。つまり、「いつまでも先延ばしできない」というのは、今は一国二制度という平和的なシステムとスタイルによって進めていても、いつまでも統一できないままの事態が続くと...