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対中関与政策終了で中国依存のリスク回避を進めるアメリカ

米中関係の行方と日本の今後を読む(6)アメリカの模索する道

小原雅博
東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
情報・テキスト
戦狼化する中国外交に対し、アメリカは「対中関与政策」終了を告げ、デカップリングを進めている。だが、国民の生活に根付いた中国依存を拭い去ることは容易ではなく、中国を顧客とする企業活動にもさまざまな軋轢が起こっている。自由・民主か経済利益かの葛藤には、日本企業も巻き込まれかねない。(全12話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:16:32
収録日:2020/09/08
追加日:2020/10/17
ジャンル:
≪全文≫

●「対中関与政策」の終わりとデカップリング


小原 それでは、中国の外交に対応してアメリカは何をやろうとしているか。

 1972年にリチャード・ニクソン大統領が訪中して、そこからスタートしたのが「対中関与政策」です。本シリーズではトランプ政権のいろいろな公文書やポンペオ国務長官の演説の話にふれてきましたが、その中で「関与政策ももう終わる、これは失敗したのだ」と言い出し、具体的には中国との関係、特にハイテク分野におけるデカップリング(切り離し)が行われました。ハイテクに限らず、中国の対米輸出や中国企業の対米投資を制限していったのです。

 実際上、ニューヨークの株式市場や債券市場に出てきている中国企業の中には不透明性が非常にあります。その報告をきちんとしないような企業はもう締め出すというようなことで、実際にアメリカを離れ、今回香港などに移った企業もいる。それによって、香港の株式市場はなかなか落ちない。

 「小原さん、香港の自由がこういう形で損なわれてくると、香港の株式市場なども落ちていくのではないかと思っていたが、どうも落ちないね」と言われる一つの理由が、今のこういった動きにもあるわけです。

 さらにいえば留学があります。オーストラリア同様、アメリカも大変な数の中国の留学生を受け入れており、高等機関である大学などにとって非常に大きなプラスになっています。そういうところについても警戒感を持って、特に理科系の留学生などに対してビザを延長しないとか発行しないなどの制約を加え始めています。研究協力やデータ、情報技術を規制する立法行政措置を、アメリカは今どんどん取っているわけです。


●中国依存リスクの減少と製造国家への転換


小原 それから、もう一つは中国依存リスクを少なくしていくことです。トランプ大統領はつい先日も、大統領選挙に向けてこの話をしています。例えば医薬品に含まれる成分の8~9割は中国関係だと言われていますから、その依存をなくしたり少なくしたりしていったりするのは非常に大事なことです。あまりに中国依存が大きいと、中国から貿易が止められてしまったとき、医薬品などは大変なことになるわけです。

―― そうですね。

小原 これまであまりにも中国依存をしてきたことを考え、アメリカ市民の間で「チャイナフリー」の議論が起こり、実際にその試みがありました。しかし、とてもではないけれど、中国産(メイド・イン・チャイナ)なしに生活しようと思ってもできなかったという結果が出ているわけです。

 これからはそういう状況を変えていこうというのが、トランプ大統領の主張です。「私が当選したら、世界最大・最強の製造国家になるのだ」と言っているのですが、私から見ても、アメリカは本当にモノをつくらない国になってしまったと思います。

 アメリカ経済が落ちていったクリントン政権の時、ITによる復活が目覚ましく行われました。GAFAに代表されるIT産業は今も本当にすごい勢いですが、それがモノをつくっているのかというと、つくっていないわけです。

 それからもう一つ、株式市場に対する投資が非常に増えました。多くのアメリカ人が、株が上がることによって自分の収入を増やしています。株によって自分の生計を支えている人たちも非常に多いです。だから、株式市場はもう落とせない。もしも落とすと、みんなが路頭に迷ってしまうようなことになります。

 そのように、モノをつくらず株やITに頼る国家になってしまっている。かといってトランプ大統領が言うように、今から製造国家にするのは大変です。だから、この問題は米中の今後、将来を考える上で非常に大事な部分だと言えます。


●デカップリングと南シナ海の人工島


小原 デカップリングについては、参考までにここに載せておきました。具体的に今どういった動きがあるのかというと、注意しないといけないのはハイテク分野だけではなく、エンティティ・リストに挙げられた人権侵害です。これはウイグルの問題としても出ましたし、南シナ海での関与もありました。

 南シナ海は中国が実効支配を進めようとしている海域です。ここで注目を集めている南沙諸島などは、国際法上は島ではありません。潮位が高くなり、満潮を迎えたときに海面から沈んでしまうような形状(フィーチャーズ)をした地形だからです。

 日本の専門家も何か誤解されているようで、彼らは、南沙諸島は岩だから「領海も領域も持たないはず」という議論を先日も行っていました。これは国際法上間違いで、岩であれば領海・領空を持ちます。南沙諸島の場合、中国が埋め立てて人工島化し、軍事化している点が問題です。

 フィアリー・クロス礁をはじめ、...
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