●国家主義の共和党、自由と民主の民主党
──(前回、州と連邦の)話の中でも出てまいりましたが、アメリカにとって一つの大きな契機になるのは南北戦争であるということを、先生は『アメリカ外交の魂』(集英社)にもお書きになっています。そこでは、理念によってつくられたアメリカが、いろいろ変わっていく現実の中でもう一度その理念を再構築する意味として、南北戦争が貴重な意味を持ったのではないかというお話もありました。
このあたり、アメリカ人の気質やアメリカというものを理解する上で南北戦争は非常に重要な部分かと思います。これについて改めて中西先生、どのようにお考えでしょうか。
中西 アメリカという国は、共和主義(共和政)と自由主義といいますか、自由で民主的な(部分を持ちます)。共和政のほうは、アメリカでいえば「リパブリック(Republic)」ですが、ラテン語の「レス・プブリカ(res publica)」は、民主や自由などのイデオロギーとは関係なく、ただ「国家」という意味です。ですから、原義からいくと、共和政というのは国家を重んじるという意味になります。
共和党(Republican Party)というアメリカの政党がありますが、共和党は国家の主人公ということを体現した名前の付け方です。また、共和党のことを別名“GOP”といいます。アメリカの政治用語ですが、“GOP(Grand Old Party)”は、「偉大なる伝統の国家を守る」主人公の政党だということです。
それに対して「あいつらは民草、つまり虫の目だから、国のことにあまり責任を持たないで、ただ『自由だ。民主だ』と言って国をバラバラにしていくような(言動を取る)」。これはあくまでも共和党員からのネガティブな見方であり、それが「民主党(Democrats)」という呼び名になります。イギリスの「トーリーとホイッグ」という言い方に一脈通じるものがあります。リパブリカンは(あくまで)自分で言っているわけです。
●連邦成立のジレンマを吹き飛ばした「奴隷問題」
中西 南北戦争は、リパブリカン(共和党)のリンカーンが行った戦争です。そのリンカーンは、国家の理念というものを非常に強く打ち出した。先ほども言ったように、「各州がバラバラになって連邦を離脱し、ワシントンの政府に従わないようなことになるのは許せない」ということで戦争をするわけですから、実をいえば南北戦争は、国家主義による戦争...