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習近平思想の内容とは…本当に「思想」と呼べるものなのか

習近平―その政治の「核心」とは何か?(4)独裁の危険性と習近平思想

小原雅博
東京大学名誉教授
情報・テキスト
習近平の時代になって、反腐敗闘争の結果、不正が減ったことは国民から評価されている。一方で習近平への権力と権益の集中は、独裁につながり、文化大革命のようなことが再び起きかねないと危ぶまれている。これは一党独裁体制ゆえの問題でもあるが、今回注目したのは憲法にも入っている「習近平思想」についてだ。「新時代の中国の特色ある社会主義」ということだが、いったいどういうことなのか。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:58
収録日:2021/07/07
追加日:2021/11/02
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≪全文≫

●習近平は裸の王様なのか――権力と権益の集中で高まる独裁の危険性


―― 先ほどのお話ではないですが、最近よく言われるのが、鄧小平時代以降の集団指導のあり方であれば良かったのに、あまりにも習近平が強権的、独裁的すぎないかという懸念の声も非常に高まっています。その背景にはやはり反腐敗闘争があると考えればいいのでしょうか。

小原 これは胡錦濤政権をどう評価するかに関係しています。胡錦濤政権がバトンタッチをするときに、胡錦濤は何もしなかった人だという評価が多くありました。江沢民のときには腐敗が蔓延しましたが、そうした問題を断固として処理する厳しい態度を取らなかったので、ずるずる状況が悪くなっていったというのがあります。

 中国の長い歴史の中でもそうですが、やはり国をまとめて引っ張っていくためには強い求心力のある「中心」が要ります。そのためには集団指導ではダメです。なぜなら、責任の所在がどこにあるのか分からないからです。誰か一人に権力を集中させて、その人が責任をもって問題を処理していくという強いリーダーシップが必要なのではないかということが、なんとなくモヤモヤ感のある中で習近平自身、あるいは国民にありました。もちろん、彼自身の野心もあったとは思いますが、それが要するに「核心」という形になりました。そういうことが時代背景としてあったのだと思います。

 しかし、実はそれは鄧小平が非常に危うんだことです。あるいは温家宝も、辞める前の全人代の記者会見でも吐露していましたが、まさに個人崇拝や権力集中という形で独裁となっていくと、また文革のようなことが起きかねないという心配もまた別途あります。今の習近平への権力と権益の集中は、ある意味でそうした怖さもあります。

 だから、ある人は彼を「裸の王様」だと言います。どこまで本当に彼にものを言えるのかというと、そこは忖度の世界になって、なかなか意見が言えなくなってくると、だんだん現実が見えなくなり、判断が鈍ってきます。そうなると非常に危ないですね。


●反腐敗闘争の結果、不正が減ったことは評価されている


―― 中国の場合は、外から見ていると、本当に反腐敗闘争なのかどうかが分かりません。中国共産党の歴史からすると、本当は奪権闘争ではないのかという疑いをどうしても持ってしまいます。やはりそこは両面で、その面も含めて見ておかないといけないということですか。

小原 そうですね。だからどちらかではないと思います。政治制度的に、例えば日本やアメリカの場合にはきちんと独立したメディアがあって、何かそういったことがあれば、それを記事にして、発表して、そこでもって責任が追及されていきます。

 中国の場合、超法規的な存在として共産党がトップにあるので、共産党による支配の間に法が入ることはできません。法は共産党が統治するための手段なので、法を使って共産党が統治します。

 そうなってくると、どうしても法を執行する場合には、共産党の利益が反映されてきます。そこで本当に普遍的な正義が実現されるかというと、どうもそうではありません。とにかくあれだけ広い中国なので、いまだに起きているということになると、国民は非常に不満が高まります。

 したがって、西側は権力を制約するような制度的な仕組み(三権分立など)がありますが、そうした腐敗が起こりにくい政治制度がない中国だと、あとやるのはとにかく強権によってそうした者たちを捕まえて、処分するしかないということです。そのため、本当に毎年ものすごい数の公務員や党員が処分されています。その中にはもちろん権力闘争的な側面もあるでしょう。しかし、同時に胡錦濤が言ったように、もう国が滅びるか、党が滅びるかという状況にまで追い込まれているような腐敗を、なんとか退治をしないといけません。そうすると、やはりそうした強権的なアプローチしかありません。

 そこには先ほど言った権力闘争的な側面もありますが、両面あるのだと思います。実際上、習近平の時代になって、その反腐敗闘争の結果として、やはり不正腐敗が減ったことは、国民の中からそれなりに評価されています。


●習近平思想は本当に「思想」なのか


―― いわば一党独裁体制の難しさを含みながらだと思います。先生のお話の中で、習近平は今の最高責任者であり、その他国家主席等々のいろいろな役がありますが、非常に特異な地位になりました。例えば、習近平思想を盛り込みましたが、これは党規約に盛り込んだことになるのでしょうか。

小原 はい。それから憲法にも入っています。

―― 憲法にも入っているのですね。ある意味日本人からすると、憲法に個人の名前の付いた思想が載ること自体、非常に違和感があることです。習近平思想とは一体何なのかという疑問があります。先ほど先生から...
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