●アメリカの不在をチャンスに、中国がTPPへの加入を申請
東アジア地域包括協定(通称RCEP)が、中国が参加する唯一の大型国際FTAです。これは15カ国が参加していて、世界のGDP比30パーセント、世界の貿易比も30パーセントで、域内人口は約23億人です。
ところが、これは中国の影響力が非常に大きいのですが、中国はTPPに入りたいと言い出しました。RCEPは基準が緩いのですが、TPPはものすごくうるさくて、「世界で最高水準のFTA」といわれている自由貿易圏です。そのため、例えば政府が企業に補助を出してはいけないことや、情報の透明化、そして知的財産権の保護など、ものすごくうるさいのです。そして、中国はこの点はほとんどダメです。
では、なぜそういうことを言い出すか。実はTPPはアメリカが言い出した仕組みです。アメリカはトランプ政権時に抜けてしまったので、バイデン政権が入ってくればいいのですが、入れません。なぜ入れないかというと、TPPにアメリカが入ると、工業製品の関税がなくなって、日本の自動車が関税ゼロでアメリカに輸出できてしまうからです。日本の(自動車の競争力の)ほうが圧倒的に強いので、アメリカの労働者にとって、これはもう絶対にダメなのです。今のバイデン政権の政治状況では、そんなことをひと言でも言おうものなら、政権が飛んでしまいそうなので入れません。
中国はそれをきちんと知っているので、「俺たちが入るよ」と言っているのです。中国が入ったら、メダカの中にナマズが入ってきた感じになるので、たぶんこの地域の東アジア、東半球の貿易圏のルールは全部中国が決めることになるでしょう。
中国はそういうことをやっているのです。そのため、当然アメリカは非常に警戒していろいろなことをやるので、対立が激化しています。
●中国の独裁政治が引き起こす人権問題とアメリカの制裁
先ほども言いましたが、トランプ氏は非常にはっきりと、25パーセントも関税を上げて、とんでもない高関税率で中国の輸出品が来ないようにしようとしました。そうすれば、アメリカの雇用が増えるだろうと考えましたが、全然ダメで、実は中国の輸出はもっと増えています。そうしたら、ハイテク覇権の闘争になりました。先ほど言ったように、中国ではファーウェイなどものすごく優れた企業がいくつもあります。中国の企業は海外からどんどん輸入して成長してきましたが、これにアメリカは輸出をしないというので、そこを止められると中国は結構苦しいのです。
そういうことをやっていましたが、バイデン氏はむしろ、ウイグル問題や、香港問題など、人権問題に非常に重点を置いています。アメリカの国務省が2020年に「世界の信教の自由」という報告書を出しました。彼らもよく調べていて、その中では、100万人以上のウイグル人が施設に収容されていて、政治的に洗脳されたり、拷問されたり、肉体的虐待を受けていることを詳しく調べていて、これは何度も出ていることです。トランプ政権の時から「ジェノサイドだ」「中国のやっていることは民族大虐殺だ」といっています。中国側は根も葉もないことを言うなと怒っています。そういうことで、バイデン政権を中心にして、そこにヨーロッパの国々が参加して中国に対する制裁をします。そして、とうとう(2021年12月に)アメリカは、ウイグルで作ったものは一切買わないという法律を通しました。日本がそこにどこまでついていけるかが議論になっています。
次に香港問題です。1984年に香港の返還が決まりましたが、それまで99年間はイギリスの統治下にあったので、誰もが英語をしゃべっているし、ライフスタイルからやり方まで全部イギリス風です。それをいきなり中国に戻したら、誰も生きていけないので、一国二制度といって、50年間は猶予期間を付けようということになりました。それまでに中国語を勉強しておくようにということだったのですが、中国は10年ほどたったあたりから違うことをどんどん始めました。
例えば、それまで香港の首長選挙は選挙でやっていましたが、中国政府の認めた人でなければダメだということになりました。それから、逃亡犯条例の制定です。変なことをやって、どこかへ逃げたら、取っ捕まられるのです。学生たちがこれに怒り狂います。それで、雨傘運動などいろいろなことをやりました。
学生たちがなぜ怒り狂うかは分かります。彼らは20歳前後です。自分たちが一番働き盛りの頃になったとき、独裁的な中国にいろいろとやられたらたまらないので、命を懸けて戦うのです。それを中国は「香港国家安全維持法」というよく分からない理由で取っ捕まえて徹底的に締...