渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」
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三十年戦争から半世紀でバッハの典雅な音楽が生まれた意味
渡部昇一の「わが体験的キリスト教論」(5)バッハと「受難の典礼」
渡部玄一(チェロ奏者)
ルター派の音楽家として最大の名前はバッハである。ルター派は、人間の五官の歓びに厳しい目を向けたが、なぜか耳=音楽だけは重視した。その伝統に則り、バッハは「自分の音楽が優れれば優れるほど、神様の栄光を表すものだ」と考えて、作曲に励んだ。そのようなバッハの音楽が、あの残虐だった三十年戦争からわずか半世紀ほどで生み出されていることに、とても深い意味がある。渡部昇一がバッハの典雅な音楽に目覚めたのは、ドイツ留学中にバッハの「マタイ受難曲」を聴いたことがきっかけだった。だが、その数日後、ベルギーの修道院で「受難の典礼」を体験する。その2つの体験は、大きな気づきを渡部昇一に与えた。(全6話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分17秒
収録日:2021年8月6日
追加日:2021年11月20日
≪全文≫

●バッハの典雅で調和のとれた音楽の「切実な意味」


渡部 ひるがえってバッハは極めて重要な作曲家です。ルター派というエヴァンゲリッシェ(プロテスタント)は、これも父の本に書いてありますが、なぜか人間の五官という快楽の源泉を非常に憎みながらも、耳だけは重視しています。だからルター派は、音楽、とりわけ讃美歌を重要視しているのです。

 バッハは、まさにザクセン公がルターを匿っていた城が郊外にあるアイゼナハというところで生まれています。この町の町楽師として、ルター派の教会音楽の重要なポストによくつくのが、バッハ一族だったわけですから、それこそガチガチのルター派の作曲家です。

 バッハは本当に敬虔なクリスチャンで、自分が作品を書くのは神の栄光を示すためであるとして、彼個人が神様と向き合っています。また、教会関係のいろいろな役職にも就いています。

 音楽でいえば、ルター派の一番巨大な名前のひとつだとは思います。しかもルター派の勃興に直接関係があり、その中で音楽を支えていた一族の末裔というか最大の名前です。その人がクラシック音楽上で極めて重要な転換点に立つ、頂点の一人であるというのが面白いと思います。

―― 以前、玄一先生にお聞きしたことですが、バッハが生まれたのが1685年で、前回お話のあった三十年戦争が終わって(編注:1648年)、30年ほどたった頃です。

渡部 わずかに三十数年後なのですね。国土が荒廃し、赤ん坊を食べるためにやり取りするような地獄の境涯から、わずか半世紀ぐらいでバッハのような音楽が出てきたという意味合いをよくよく感じると、やはりバッハの典雅で調和のとれた音楽の切実な意味が、より分かるのではないかと思います。

 しかも、その美を極めた彼は、自分の個性や主張を表現しようとしたわけではありません。純粋に音楽的な音の美しさ、音楽のつくりを極めようとしました。そして、それが優れれば優れるほど、神様の栄光を表すものだと考えました。何も宗教を押し付けることではなく、自分の仕事の中でそういうことを達成しようとしたのです。

 彼の音楽は端正で、比較的に明るいものが多く、言い方によっては「健康」ともいえる。健康で調和のとれた世界をつくり出す音楽を多数生んだのは、その時代バッハだけではなく、イタリアのヴィヴァルディもそうでした。もともとイタリアでできたものをバッハが取...

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