●保護主義は「非常に巧妙な嘘」のようなもの
―― では、そもそもにおいて自由貿易と保護貿易、どちらがいいのかという議論ですけれど、ここはいかがですか。
柿埜 先ほどもお話をしましたけれど、保護貿易を正当化する議論というのは、基本的に自給自足っぽい生活を正当化する議論とあまり変わらないところにあるわけです。
パン屋が私に対して「貿易黒字を稼ぐのはけしからん」というのは見当外れな意見です。「みんな自分の得意なことをやったほうがいいよね」と考えるのが普通だと思います。それと同じで、保護貿易は基本的にはうまくいかない政策なわけです。
だいたい、皆さんどうして自由貿易、あるいは保護貿易がいいと思ってしまうかというと、いくつかあるわけですけれど、一つは、相手のことを、例えば他の国のことを、私たちは「お客さん」ではなくて、「ライバル」だと考えてしまいがちなわけです。
例えば、ペプシとコカ・コーラだったら、これはライバルです。ペプシコーラが売れたらコカ・コーラは(以前よりも)売れなくなるでしょう。普通はそうですよね。
ですが、世界を見渡してそんな国はないわけです。基本的には例えば、中国と日本だったり、韓国だったりといった国でも、お互いにいろんなものを取引しています。相手はむしろ「お客様」です。だから、そのお客様を貧乏にするということは、少しもいいことではないし、お客様が得をしたら自分たちもむしろ得をするわけです。これは実は「win―win」な関係にあると考えたほうが自然なわけです。
まずこの「相手をライバルだと考えてしまう」というのが、保護主義を正当化しがちな間違いの一つです。相手を貧乏にしたから自分が豊かになるわけではないわけです。
もう一つ、保護主義を正当化するのによくありがちな間違いがあります。これは何かというと、自分の国の産業は、例えばコンピューター産業だとかIT産業が豊かになる必要があるということです。他の国はそれに成功している、稼いでいる、こちらは発展しない。これは保護しなければダメなのだということです。昔だったら自動車産業とか、アメリカは今もやっているからなんともいえませんけれど、鉄鋼産業を保護しなければいけないとか、そういう特定のなにかいい産業があって、そのいい産業を独占しているやつがいて、それはズルいという発想になりがちなのです。
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