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欧州に広がるマイナス金利

欧州の金融緩和策と初の「マイナス金利」とは?

植田和男
第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授
情報・テキスト
2015年1月、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が金融緩和政策を発表したが、その前から多くの国で中央銀行による金融緩和政策が実施され、予想以上の効果を発揮している。その理由は、マイナス金利が広がりつつあることだという。なぜマイナス金利が影響あるのか? 実際にどんな効果が現れているのか?ECBをはじめ各国の金融緩和策とマイナス金利について、東京大学大学院経済学研究科教授・植田和男氏が解説する。
時間:13:34
収録日:2015/03/24
追加日:2015/03/30
≪全文≫

●多くの国々が金融緩和政策を実施


 それでは、今日は、今年(2015年)に入って金融政策関係で話題になった事象の中から、最も注目を集めた話の一つとして、ヨーロッパ中央銀行(ECB)の量的緩和策とその周辺の話題について、お話ししてみたいと思います。特に、周辺の話題としては、マイナス金利の話が面白いと思いますので、そちらについても少しお話ししてみたいと思います。

 その前に、今年に入ってから各国の中央銀行による金融緩和政策の実施状況を簡単な表にしてみました。1月の初めから、インド、スイス。スイスは若干微妙なケースですが、金利を下げていますので、一応金融緩和政策とします。続いて、デンマーク、トルコ、カナダ、ECB、それから、シンガポール、ノルウェー、ロシア、オーストラリア、中国、そして、3月に入ってスウェーデンと、大変多くの国々で金融緩和政策が実施されています。特に赤字になっているところは、後でお話ししますが、マイナス金利が実施されているところです。

 この背景ですけれども、まず昨年(2014年)の暮れ、日本銀行が大幅な金融緩和を決めたことでかなり円安に動いたことが挙げられます。その後、これではヨーロッパは大変だろうということで、ECBが近いうちにいわゆる量的緩和政策(QE)を実施するという予想がマーケットに広がり、ユーロ安を引き起こし始めました。ECB自体は、1月22日に量的緩和政策を決定し、実行は3月に入ってからということになったわけですが、これもあって、やはりユーロは安くなったのです。

 円とユーロが安くなったのではたまらないということで、先ほど表で見ました他の中央銀行が次々に金融緩和政策を打ち出し、自国通貨があまり高くならないように、できれば多少弱くなるように政策を進めています。あるいは、各国間で、ある種の通貨切り下げ競争のような事態に入ってきているという面があるかと思います。

 第1次世界大戦から第2次世界大戦にかけて通貨切り下げ競争が勃発したことで、各国間の対立は一段と厳しいものになったという経験があります。それゆえ、今回の事態も、あまり好ましいことではないと、皆が思っているわけです。端的に言えば、ゼロサムゲームであるということかと思います。

 ただ、今回の金融緩和競争、特に、その中での通貨切り下げ競争を見てみますと、単純にゼロサムゲームではなく、若干プラスサムゲーム的な面もあるように思います。それについて次にお話ししてみたいと思います。


●マイナス金利の広がりで金融緩和策に効果


 さまざまな中央銀行の緩和政策、あるいは、量的緩和政策が、思った以上の効き目を発揮しています。その理由の一つとして、マイナス金利が広がりつつあるように思います。マイナス金利について、もう一度先ほどの表をご覧いただきましょう。スイス、デンマーク、それから、ユーロ圏(ECB)、スウェーデンは皆、ある種、マイナス金利を実行している国なのです。マイナス金利の意味として、この四つに共通して見られる点は、普通の銀行が中央銀行にお金を預けると、金利はマイナスになる、つまり、お金を取られてしまうという措置を導入していることです。

 そのマイナスの度合いは、一番大きいスウェーデンでマイナス1パーセントですから、中央銀行に1年お金を預けておくと、100が99になってしまうということです。一方、ECBはほんのわずかでマイナス0.2パーセント程度です。

 中央銀行にお金を置いておくと減ってしまうということですから、普通の銀行は、なるべく中央銀行にお金を置かず、他の資産を購入しようとするわけです。短期の国債等は、ほぼ金利がゼロないしマイナスですので、長期の国債を買ったり、社債を買ったり、社債の中でもリスクの高い、いわゆるハイイールド債を買ったり、最後には株を買ったりという動きになるわけです。


●ECBの決定後も続く金融資産購入の動き


 現実に起こっていることを少しご覧いただきたいと思います。まず為替レートからですが、この表はユーロドルレートになります。下に行くと、対ドルでユーロ安を表します。右の黒い線が、ヨーロッパ中央銀行(ECB)が、1月に金融緩和を決めた時の日付に対応しています。通常、こういう金融緩和政策を発表すると、材料は出尽くしてしまうため、そこから先は、ユーロで言えば、あまり弱くなっていかないのが一般的です。しかし、今回は、発表後も、ユーロは継続的に安くなっていったことが分かります。

 それから、こちらは長期の国債の表で、青がドイツ国債の金利の推移を表しています。10年の長さの国債金利が、限りなくゼロに近づいてきています。しかも、1月22日の政策決定の後も、引き続き金利が下がっていることが分かります。

 順番でいえば、ド...
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