●日本経済は3年間ほとんど成長していない
今週の初めに、昨年(2014年)第4四半期のGDP統計が新しく発表されましたので、そのデータを少し詳しく見ながら、アベノミクスのこれまでの評価と今後の展望を述べたいと思います。
最初に、この図(図1/実質成長率 前期比年率)が実質GDPの四半期データを過去3年ほど記したものです。それぞれの数字は、前四半期に対する成長率を年率で示しています。アベノミクスは2012年10‐12月期から始まり、2013年10‐12期を除いて順調に成長していたわけですが、消費税が上がった後で急速に落ち込み、2四半期マイナスが続き、2014年10‐12期は一応プラスに戻って、消費税増税反動の低迷を脱したかと言われているところです。
これを違った観点から見たものがこの図(図2/実質GDP:2012Q1からの累積変化率)になります。同じように実質GDPの図ですが、対前期比の変化率ではなくて、2012年の第1四半期から、累積でどれほどGDPが増えたかを四半期ごとに書いています。例えば、2012年第4四半期は、2012年第1四半期に比べてGDPが下がっていることを意味しています。そのように見ると、2013年第1四半期から元の水準に戻って、2014年第1四半期には3年前に比べてかなりGDPが増えていたことが分かります。しかしその後、一度増えたものが急速に縮み、2014年第3四半期はほとんどゼロになっています。つまり、ここで3年前と同水準に戻ったのです。
次の第4四半期は少し伸びましたが、明らかに1パーセントに達していません。つまり、3年間でGDPは0.6~0.7パーセントくらいしか伸びていないのです。年率に換算すると、3で割って0.2パーセント強です。上下はありましたが、平均的に見れば、日本経済はこの3年間ほとんど成長していないことになります。
●公共投資がGDPを引っ張ってきた
この図(図3/各需要項目の実質GDPに対する寄与度:2012Q1からの累積値)は少し細かくて恐縮ですが、図2を需要項目別に分けたものです。青が家計の需要で、消費と住宅投資を足したものになります。赤が企業の設備投資。緑は政府の需要で、政府の消費と公共投資を足したものです。紫が海外の需要で、日本の輸出額から輸入額を引いた数字になっています。
それぞれ詳しく見ると、青の「消費+住宅投資」は、GDPの動きと似た大きな変動を示しています。消費税引き上げ前の駆け込み需要があり、2014年第1四半期は、2012年第1四半期に比べると3.5パーセント伸びていますが、次の四半期ではほとんどゼロになるほどの反動が来て、その後もほぼゼロです。消費+住宅投資は、単に駆け込みと反動があっただけで、3年前からほとんど成長していないのです。これがGDP変動の主原因です。
赤の設備投資は、消費ほどではないですが若干の駆け込みと反動があって、3年でほんの少しプラスになり、GDPに寄与していることが分かります。なお、縦軸はGDPにどれほど寄与したかを示しています。赤は、0.2~0.3。つまり、設備投資の3年間の伸びが、GDPを0.2か0.3程度押し上げたことを意味します。
すると結局、GDPに大きく寄与してきたのは緑であることが分かります。3年間で、GDPを1パーセント近く押し上げています。これは政府の需要です。中でも伸びているのはほぼ公共投資です。つまり、この3年間のGDPは、公共投資に支えられてようやく1パーセント弱の成長を実現しただけで、あまり喜べない状況です。
最後に、「輸出-輸入」ですが、これはアベノミクス開始前よりも一時期はマイナスになりました。おそらく、それ以前の円高が輸出を減らしたために、円安で若干戻ってきたとはいえ輸出額の低迷が続いたのです。さらに、消費税増税前の駆け込みの一部が輸入増に向いたために純輸出が減少したことも影響しています。ただ、そのマイナスは消費税増税以降だんだん減ってきており、2014年第2四半期に円安で輸出が伸びたこともあって、現在はゼロ近辺に戻っています。
つまり、ざっくりといえば、公共投資がGDPを引っ張ってきたのです。2014年第1四半期以降は輸出の伸びも多少寄与してきましたが、消費と住宅投資、設備投資はほとんど経済を押し上げていません。民間の活力を引き出すことがアベノミクスに期待されてきたことを考えると、今のところは若干期待外れに終わっているのだと思います。
●4月以降は実質賃金の上昇が期待できる
次に、消費をもう少し詳しく考えるために、消費に一番関係があると思われる賃金を消費者物価指数で割った「実質賃金」の対前年比の伸び率を見ると、このような姿になります(図4:実質賃金の対前年...