円安が日本経済に与える影響
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
輸出が伸びない理由は日本企業の生産体制
円安が日本経済に与える影響
政治と経済
植田和男(第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授)
円安が進行した過去2年、貿易・サービス収支はほとんど改善していないと植田和男氏は言う。その詳細は、その他の影響はどうなのか。今後、改善する可能性はあるのか。円安と日本経済の関係を徹底解説する。
時間:13分46秒
収録日:2014年12月22日
追加日:2014年12月25日
カテゴリー:
≪全文≫

●円安でも、貿易・サービス収支は改善しなかった


 それでは、本日は、ここ2年続いている円安に関する話を申し上げたいと思います。図を持ってきていませんが、円ドルレートでは、円安は2年間ですでに5割くらい進んでいるでしょう。今日お話ししたいのは、円安の原因や、今後円がどうなるかということではありません。円安が進んだにもかかわらず、日本経済に円安の効果が十分表れていないのではないかという話が多いので、今回はその辺りに焦点を当て、簡単に解説できたらと思います。

 まず、円安が国際収支にどのような影響を与えているかを示す図をご覧いただこうと思います。この図です。黒い実線が「貿易・サービス収支」と呼ばれる概念で、「財の輸出-輸入」と、例えば観光などで日本人が海外旅行に行けば赤字で、外国人が日本に来れば黒字という、いわば「サービスの輸出-輸入」の項目を足したものです。

 この青い線のついている所が、円安が進行した過去2年ですが、貿易・サービス収支がほとんど改善していないことが分かります。そこで貿易収支とサービス収支に分解すると、特に貿易収支が少しずつ悪化を続けてきたことが分かります。一方、サービス収支は、おそらく外国人の日本への観光旅行などが増えて改善しています。

 国際収支全体は、貿易・サービス収支の外側にある「経常収支」という項目で示されています。こちらのグラフでは黒い実線で書かれています。こちらも過去2年間、あまり目立った改善を示していません。ただし、ここ2、3カ月は、若干改善の気配を見せています。この理由は二つで、先ほどご覧いただいた貿易・サービス収支が、観光収入などの増加で多少改善していることです。

 それから、もっとはっきりしているのは、この赤い線です。「所得収支」と言いますが、要するに、日本人が持っているドル資産、海外資産などに対する利子配当収入が増えていることです。利回りが良くなったわけではなく、ドルで入ってくる利子収入の円建ての金額が膨らんでいるのです。それらを反映して、経常収支はここ3カ月、多少改善していますが、2年間で見れば、やはり大した改善は示していません。


●輸出が伸びない理由は、日本企業の現地生産体制


 最大の原因は、やはり輸出が増えていないことにあります。これが「実質輸出」という数値で、大まかな輸出数量の動きを示しています。...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
松下幸之助の人づくり≪3≫理想の政治(1)国家に経営理念があれば、もっと日本は発展する
無限の可能性に挑め…国家経営を創造し、新時代の憲法を!
松下幸之助
グローバル環境の変化と日本の課題(1)世界の貿易・投資の構造変化
トランプの動きを止められるのは?グローバル環境の現在地
石黒憲彦
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
2025年、どん底日本を脱却する大戦略(1)日本が凋落した要因を総覧する
日本凋落の「7つの要因」と「10の復活大戦略」
島田晴雄
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(1)国際秩序の転換点と既存秩序の崩壊
経済秩序や普遍的価値観を破壊し、軍事力行使も辞さぬ米国
佐橋亮

人気の講義ランキングTOP10
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(2)日本人が知らない世界エンタメ市場
実は「コンテンツ世界収益ベストテン」に日本勢が5つも!
水野道訓
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部