●イギリスのEU撤退「BREXIT」は何をもたらすか
今日は、最近非常に話題になっている「BREXIT(ブレグジット)」というテーマについて、やや一般的なお話をしてみたいと思います。
そもそも「BREXIT」とは、「Britain's EXIT from EU」つまり「イギリスがEUから撤退する」という意味を表す造語です。
イギリスでは、これに関する国民投票が、6月23日に行われる予定で、この結果「離脱する」という意思決定が国民から下されれば、その後行政的な手続きがかかるため実際に離脱するのは2年ほど先になるようですが、イギリスがEUから脱退することになると言われています。
本日は、そういうことが起こった場合のイギリス国内とヨーロッパにおける影響、さらにより広くグローバルにはどういう意味を持つのか。その両面について少しずつお話ししてみたいと思います。
●賭け率から分かる「BREMAIN」の推移
影響についてお話しする前に、このデータをご覧ください。こちらは、イギリスがEUから離脱するかどうかについて、イギリスにおける賭けの結果を表したデータです。上に行くほど離脱の可能性が低いのは、表題に「BREMAIN」とあるように、イギリス(ブリテン:B)がEUにとどまる(リメイン:REMAIN)可能性を確率で示したものだからです。
イギリスのウェブサイト上ではいま、どちらが起こるかに対する賭けが行われています。このグラフは、それを日々集計してつくり出したものです。賭けから読み取れる確率をご覧いただきますと、今年5月中旬ぐらいまではだいたい一定で、かなり高いところ、つまり「EUから離脱しないだろう」という倍率で推移していました。その後、いったん「もう大丈夫だ」という見方が強まり、「離脱しない」可能性が高まったという結果が出ています。
ところが、6月に入ると急速に離脱の可能性が高まり、イギリスがEUに残存する可能性は低くなってきたことを、賭けの数字は告げています。今週(6月第3週)の半ばごろには最低のところに落ち込む結果が出ています。それでも50パーセントは上回っていますので、この賭けに参加している人たちはどちらかというとEUにとどまることを望んでいる人が多いという、そのような賭けだと言われています。
グラフの最後の部分(6月16日から17日)には、いったん上がる動きが示されています。ご存じのようにイギリスのEU残存派である下院議員が射殺されるという痛ましい事件が起こりまして、それが逆に残存の可能性を高めるという方向に、賭けの上では影響したということです。
●世界経済混乱に備えて、円高・日経平均安の動きが起こっている
この話は、マーケットにもすでに大きな影響をもたらしています。日本に近いところで見ますと、このグラフは青い線が「日経平均」の動き、赤い線がよりBREXITに関係の高い数字で、「円:ポンド為替レート」です。下に行くと、円高・ポンド安となる動きを示しています。
5月末ぐらいから急速に、円がポンドに対して高くなりポンド安になる動きが見て取れます。それと機を一にして、日経平均が急速に下がってきました。ここ1カ月ぐらいで、昨日までに1割近く下がりました。この相関から判断しますと、BREXITの可能性が高まったことに、かなり近似した日経平均の下落であったという面があると言えるかと思います。
なぜBREXITが始まると円が買われるか、その答えを出すのは難しいところです。一般的にイギリスにとって不利なことが起こるのでポンドが売られるというのは分かりやすいわけですが、それに伴って世界の金融市場が混乱することが予想されています。そういう場合、円はいつも「セイフヘイヴン(Safe Haven)」通貨、つまり避難通貨として買われる傾向が強かったわけです。今回もそうではないかということで、それを先取りする形で円高が起こっていると解釈することができます。
これもまた最後のところは、先ほど申し上げたイギリスの下院議員射殺という事件の結果、BREXITの可能性が若干下がっただろうことに対応して、それまでの動きを修正する動きが本日(6月17日)の時点では起こっているのです。
●イギリスはなぜEUから離脱したいと思うのか
それではもう少し根本的に、なぜイギリスがEUから離脱したいと思うかということに関する議論を整理してみます。そもそもEUは、戦後ヨーロッパにずっと続いてきた政治経済統合を強める動きが、1990年代において結実したものです。
特に経済面からそれを眺めてみると、ヨーロッパ域内でヒト・モノ・カネの自由な移動を実現していく。それによって、経済の安定性を図り、ひいては政治的な統合を強め、域外の大国である米国への対抗パワーをつくり出す。域内では第二次大戦のようなヨーロッパの国同士が戦うようなことが二度と起こらないようにする。その...