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欧米の中央銀行による金融政策正常化の論点

金融政策正常化の難しさ(1)欧米の金融引き締め政策

植田和男
第32代日本銀行総裁/東京大学名誉教授
情報・テキスト
最近、欧米では金融政策正常化の機運が高まっているという。その正常化の経緯やそこに伴ういくつかの困難、その背景等について、共立女子大学国際学部教授の植田和男氏が2話にわたり解説する。今回は、特に顕著なFEDの引き締め政策とそれに伴う各国の動向を取り上げ、さらにアメリカ市場が示す謎めいた反応について言及する。(全2話中第1話)
時間:12:00
収録日:2017/07/19
追加日:2017/08/12
≪全文≫

●FEDは量的緩和縮小、金利引き上げ、新規借り入れ停止へ


 本日は、最近欧米の中央銀行が金融政策を正常化するという機運が高まってきましたので、その周辺のお話を整理して、どういう論点があるかということを中心にお話ししてみたいと思います。「将来は必ずこうなる」ということは誰にも分かりませんので、それを考える際のヒントになるような論点をいくつかお話ししてみたいと思います。

 最初にこちらが、アメリカの中央銀行FED(Federal Reserve System)とユーロ圏の中央銀行ECB(European Central Bank)の金融政策の最近の動きを、金利といわゆる量的緩和、資産買い入れの部分についてまとめてみたものです。

 特にFEDについて、まず簡単に説明しますと、長らくゼロから0.25パーセントという金利を続けてきたのですが、一昨年(2015年)の暮れに0.5パーセントへ、一度0.25パーセントの引き上げを行いました。その後さらに、昨年(2016年)の12月にまた2回目の引き上げを行い、そして今年(2017年)に入ってさらに2回引き上げを行い、都合4回金利を引き上げています。また、1回目の金利引き上げに先立つこと2年ほど前の2013年の途中から量的緩和を縮小するという方針を打ち出し、新規の借入額を減らした後、新規の借り入れをストップしました。

 現在、話題になっている論点は、新規の借り入れはもうしていないのですが、持っている国債とモーゲージ・バックト・セキュリティーズ(Mortgage backed securities、モーゲージ証券)、これらの残高を減らしていくという意思決定を今年の9月にするのではないかということで、そのことが市場でうわさされているのです。


●FEDとECBともに、金融政策正常化、引き締めへ


 同じようにECBについて見てみますと、金利が下がってきて、まだしばらく上がる気配はないのですが、FEDと同じように債権その他の資産を買うというプログラムにおいて、新規の購入を減らしていくという、ちょうどFEDが2013年から始めたような政策の正常化を今年の9月にアナウンスするのではないかと言われています。

 ですから、両方の中央銀行が非常に大まかには正常化、あるいは若干引き締めの方向、いわゆる出口の方向に向かうという機運が高まりつつあります。FEDの場合は既にそういう方向にはっきりと向かいつつあるのですが、これが市場や経済にどういう影響を与えるかということに、皆さんの注目が集まっているところです。


●ベースマネーのGDP比にみる欧米と日本の違い


 今回の正常化の一つの特徴、ポイントということで、こちらのグラフをご覧ください。先ほど申し上げたような量的緩和という側面があったので、ベースマネーの量を減らしていくということになります。青がアメリカのFEDが供給するベースマネーのGDPに対する比率で、足元2割を少し超えたところにあります。赤がECBが供給するベースマネーの、ユーロ圏のGDPに対する比率で、同じようなところにあります。いずれも過去10年前後の間に急速に上昇してきたことが分かります。

 これが今後減っていくことが予想されるので、どういう影響が経済に派生するのか、皆が一様に心配するところです。ただ、今日の話はこの量が上がって下がったという面というよりは、金利や資産価額がどのように動くかというところを中心にお話ししたいと思います。

 最後に日本について見てみますと、グラフのグレーの線が日本銀行が供給しているベースマネーのGDP比率です。現状80パーセントを超えているということで、アメリカやヨーロッパに比べると圧倒的に大きい規模の資金が市場に供給されているわけです。それともう一つ、日本銀行の場合は、引き締め方向、あるいは量を減らしていくという方向でのアナウンスが近々行われるという気配は今のところ全くありません。


●リーマンショック後の各国一斉緩和の理由


 今回、欧米の金融政策正常化という話をしていますが、いろいろ考えなくてはいけない点があります。一つはまず、皆一緒にグローバルに金融緩和を進めてきて、これから引き締めに入ろうというときの難しさという点について指摘しておきたいと思います。

 このグラフは「各国の短期金利」と題して、アメリカ、イギリス、それから日本、ヨーロッパの中央銀行それぞれの過去10年強の政策金利について書いたものです。少し前ですが、リーマンショックのところを振り返っていただきますと、皆、一斉に引き下げていることが分かります。もちろん一番最初に大幅に引き下げたのはアメリカですが、それに釣られるようにヨーロッパの中央銀行、イギリスが引き下げています。

 これは皆が金融危機で苦しんだからという面ももちろんありますが、同時に、アメリカだけが引き下げて自分の国を放っておくと、自国通貨が非常に強くなってしまい、それが経済にダ...
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