編集長が語る!講義の見どころ
「新しい資本主義」の本当の姿がわかる!(柳川範之先生)【テンミニッツTV】

2022/02/15

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

岸田総理が「新しい資本主義」と言い出して以来、この言葉があちらこちらで見られるようになりました。しかし、わかったような、わからないような言葉であることも確かです。

はたして、「新しい資本主義」とは、本当はいかなるものなのか?

本日は、そのことをご解説いただいた柳川範之先生(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)の講座を紹介いたします。現在の資本主義の諸問題をご指摘いただきつつ、新しい資本主義の姿と課題をお示しいただきました。

これからの資本主義の姿が、とても明確に見えてくる講座です。

◆柳川範之:「新しい資本主義」の本質と課題(全6話)
(1)新自由主義と『21世紀の資本』
新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4337&referer=push_mm_rcm1

柳川先生はまず、現在、「資本主義」について、経済学的にどのような問題関心が語られているのかについて教えてくださいます。

岸田総理が主張する「新しい資本主義」では、「新自由主義の弊害」についての指摘がなされます(『文藝春秋』2022年2月号など)。では、たとえば「新自由主義」は、現在、経済学的にどのように考えられているのでしょうか。

それについて柳川先生は、「経済学的には、何が新自由主義であるかについては、実はあまり明確ではない」とおっしゃいます。

柳川先生は、《「市場メカニズム」が重要な役割を果たすと考えるのが近代経済学の基本的な考え方。そして市場メカニズムがとても重要であることも、また完璧なものではないことも、最初からわかっていることであり、経済学の教科書の最初に書いてあること》とご指摘くださいます。

つまり、そのような前提のなかで、新自由主義は「市場メカニズム」を重視して規制改革を進めることを主張する政治的主張にすぎないというのです。

一方、そのような自由主義的主張に対しては、たとえば2013年にトマ・ピケティが『21世紀の資本』で「格差」の問題を訴えて、話題になりました。ピケティは18世紀以降のデータを分析し、一定の期間以外では「資本が生み出す利益(資本収益率)はつねに経済成長率よりも高いから、金持ちほどより金持ちになる」と主張したのです。

これに対しても、柳川先生は、《ピケティの議論は非常にインパクトのあった話ですが、私自身は資本と労働・賃金の収益率の違いだけで格差を説明するのはやや乱暴な話ではないかと思います》と指摘されます。それがなぜかは、ぜひ講座本編をご覧ください。

さらに柳川先生は、「再分配」や「賃上げ」についても指摘されます。最近、日本では、企業の収益は上がっているのに、なぜ、なかなか賃金に反映されないのか?

それについては、「付加価値生産性」と「独占」の視点から、その理由を教えてくださいます。とてもわかりやすく、この「からくり」についてお話しくださっていますので、ぜひこちらも講座本編でご覧いただければ幸いです。

このように、現在の資本主義の課題についてご解説くださったうえで、柳川先生は「資本主義の未来的可能性」についての展望をお話しくださいます。

重要なポイントは「見える化」です。つまり、ITやAI技術の進歩により、いままでは分析できなかったデータが、容易に分析できるようになった。気候変動や格差、貧困、人権などの社会的課題も、十分なデータが使えるようになってきている。つまり、課題が「見える化」されるようになったので、それを資本主義のメカニズムで解決できるようになってくるというのです。

たとえば気候変動でいえば、どの企業が気候変動に害をなす活動をしていて、どの企業が有益な活動をしているかが、一目瞭然になる。すると、消費者は、害のある企業の製品を避けるようになり、有益な企業を評価するようになる。このような積み重ねで、流れが大きく変わってくるというのです。

たしかに、いまや自動車も、これまで想像もできなかったスピードで、EV化の方向へと進んでいます。それもひとえに、多くの人々の意識が変わったからでしょう。

そのうえで柳川先生は、

●現在、消費者のニーズがつかみにくくなっているなかで、大きなニーズを生み出すために企業はどうすべきか。

●現在、株主を第一に考えるだけではなく、環境問題、地域住民、従業員といったステークホルダーをしっかり考えていく「ステークホルダー資本主義」が重要だといわれはじめているが、それは日本がかつて重視してきたステークホルダー資本主義とどう違うのか。

というテーマについてもご論及くださいます。

柳川先生のわかりやすいご解説を聞きながら、資本主義の基本原則と未来の姿について、多くのことを考えることができる講座です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆柳川範之:「新しい資本主義」の本質と課題(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4337&referer=push_mm_rcm2


----------------------------------------
☆今週のひと言メッセージ
----------------------------------------

《判断力を鍛えるために歴史を勉強する》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4000&referer=push_mm_hitokoto

モンテーニュが説いた「歴史を勉強すること」の意義
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会科学研究科准教授)

モンテーニュは歴史を勉強することについて、それはたくさん学んだほうがいいとは言うんだけれども、年号や人名を覚えたりすること以上に、そういう過去の歴史の出来事に接した場合、自分だったらどのように対処するか、どのように判断するかという判断力を鍛えるために歴史を勉強すると言うのです。

だから、同じようにいろんなことを勉強するときに、「自分だったらどう考えるかな」というように、いったん自分に立ち返ってみれば、そういう不安とか、自分を見失ってしまう居心地の悪さみたいのは、なくなるとまでは思わないけれども、うまくマネージしたり、コントロールしたりできるんじゃないかと思います。


----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------

御台所となった北条政子が果たした重要な役割とは
坂井孝一(創価大学文学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4321&referer=push_mm_rank

10分でわかる「ウォーレン・バフェット」
桑原晃弥(経済・経営ジャーナリスト)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4234&referer=push_mm_rank

江戸とローマの共通項は?…比べるとわかる平和の核心
本村凌二(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4258&referer=push_mm_rank

海洋アジアと大陸アジアの対立へ、地政学的舞台が移動
白石隆(公立大学法人熊本県立大学 理事長) ※「隆」:実際は旧字体
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4353&referer=push_mm_rank

進化的に「おかしい」現代生活、どんな食事がよいのか
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4316&referer=push_mm_rank


----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------

今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、最近ふと気づいたことがあるので、それに関連した講義を紹介いたします。

日本で一番多い苗字の方は「佐藤」さんで180万人ほどいらっしゃるようですが、テンミニッツTVの講師のなかには現在お一人しかいらっしゃいません。
たまたまだと思いますが、そのお一人というのが東京大学名誉教授の佐藤康宏先生で、ある意味、格別という感じもしてきます。
なぜかといいいますと、佐藤先生が語る日本の美術についての講義は秀逸で、日本画の見方が変わるお話にあふれているからです(個人的な感想も含まれていますが)。
それが以下の講義になります。

◆佐藤康宏:日本美術論~境界の不在、枠の存在 (全6話)
日本美術の特徴を示す矛盾した2つの要素とは?
(1)具象と抽象の共存
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2024&referer=push_mm_edt

どこが秀逸なのか。初めてご覧になるという方はぜひシリーズを通してご視聴いただき、新たな気づき、学びをご堪能ください。