編集長が語る!講義の見どころ
日本神話と世界神話「不思議な類似」の秘密(鎌田東二先生)【テンミニッツTV】
2022/04/05
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
大好評をいただいている鎌田東二先生の「世界神話の中の古事記・日本書紀」講座ですが、いよいよ第3シリーズの配信が始まっています。
第1シリーズでは、世界神話と日本神話の「人間観」の違いを概観したうえで、『古事記』と『日本書紀』の大きな違いについて見ていきました。第2シリーズでは、寺田寅彦のエッセイなども引用しながら、日本神話とインド神話、北欧神話などを比べつつ、いかに神話の「世界観」が異なっているのかをお話しいただきました。
第3シリーズで取り上げるのは、「驚くような神話の類似」です。
「えっ? なんでこんなに似ているの?」。日本神話とギリシア神話、アイルランド神話。ユーラシア大陸の両端ともいえる場所なのに、不思議なほどに類似する神話がある秘密とは? そこから、神話の面白みと不思議に迫っていきます。
ついつい誰かに話したくなってしまう。そんな講座です。
◆鎌田東二:古事記・日本書紀と世界神話の類似(全10話予定)
(1)オルフェウスと死
なぜ『古事記』と『ギリシア神話』は似ているのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4398&referer=push_mm_rcm1
そもそも、鎌田先生が日本神話と世界神話に興味をひかれて、のちに比較神話学や比較宗教学に関心をもって研究するようになったきっかけは、小学校5年生のときに、小学校の図書室にあった『古事記』と『ギリシア神話』を読んだことだったといいます。
とてもドラマチックで奇想天外ともいえる『古事記』の神話に感動し、次に『ギリシア神話』を手に取った。すると、どこか共通のテイストやトーンを感じた。そして、オルフェウスとエウリュディケーの話に至ったとき、あまりにも日本神話のイザナギとイザナミの黄泉の国での物語と似ているので、大いに驚いたというのです。
まず、日本神話のイザナギとイザナミの黄泉の国の話は次のような話です。
男神のイザナギと、女神のイザナミは2人で国生みをしていきます。しかし、火の神であるカグツチを生んだときに、イザナミは女陰(ホト)を焼かれて死んで黄泉(よみ)の国に行ってしまうのです。
悲しんだイザナギは黄泉の国へと行き、「まだ国生みが終わっていないから、一緒に元の世界に戻ろう」と誘います。しかし、イザナミは黄泉の国の食べ物を食べてしまっていたので戻ることができません。そこでイザナミは「黄泉の国の神様に相談しますので、その間は、絶対に私を見ないでください」というのです。
しかし、待てど暮らせどイザナミは戻ってこない。待ちかねたイザナギは、ついに我慢ができなくなって、「見ないでください」のタブーを犯して、イザナミを探しにいきます。すると暗闇のなかで見えてきたのは、ドロドロと腐乱したイザナミの姿でした。
怖くなったイザナギは逃げ出します。しかしイザナミは、「自分に恥をかかせた」と怒り、黄泉の軍勢も動員して追いかけてきます。イザナギはようやく黄泉の国と現世の境の「黄泉比良坂(よもつひらさか)」までたどりつき、そこに巨石を置いて、あの世とこの世を隔てます。すると怒ったイザナミが「あなたの国の人を1日に1000人殺す」といい、それに対してイザナギが「お前がそういうなら、私は1日に1500の産屋を建ててみせる」といった……という話になっていきます。
一方、オルフェウスとエウリュディケーの話は、こうです。2人は夫婦でしたが、ある日、エウリュディケーが毒ヘビに噛まれて死んでしまい、冥府(めいふ)の国へ行ってしまいます。悲しんだオルフェウスは冥府の国に行きます。彼は竪琴と歌の名手だったので、その力も駆使しつつ、冥府の神と交渉して、妻が帰れることになります。
しかし、冥府の神は1つ条件をつけました。それは、元の世界に帰るまで振り返ってはいけないというものでした。2人はそれを守って、現世への出口まで来ます。しかし、自分が元の世界に出たところで、ついついオルフェウスはエウリュディケーを振り返ってしまうのです。しかしその瞬間、まだエウリュディケーは完全に冥界から出ていませんでした。かくしてエウリュディケーは再び冥府に引き戻されてしまう……という悲劇的な話です。
小学生だった鎌田先生は、この2つの神話を読んで、あまりの相似に心を打たれたわけですが、たしかにその気持ちはよくわかります。
黄泉(冥府)の神と交渉をする。見るなというタブーを課せられる。黄泉(冥府)から現世への道を戻ってくる。結局、タブーを破ってしまうなどといった点が、みごとに共通しています。
神話には、英雄神話や異常出生譚など、様々な共通するモティーフがあります。なぜ神話が似ているのかについて、「伝播説」と「生得説」の2つの考え方があるといいますが、それぞれどのようなものなのでしょうか。
さらに、アイルランド神話の「オシーン伝説」は、日本の「浦島太郎伝説」と不思議に似ているのですが……。
そのあたりのことは、ぜひ講座本編で順次配信されますので、ぜひご覧ください。
世界の神話と日本の神話を比較することで、神話が語り継がれてきたことの意味がよくわかってきます。人間の文化や精神の面白さについて、様々な角度から光を当てることができる講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆鎌田東二:古事記・日本書紀と世界神話の類似(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4398&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
☆今週のひと言メッセージ
----------------------------------------
《バーチャルのためにリアルを犠牲にすることが起こっている》
未来社会でヒトが道徳を使いこなすためには?
鄭雄一(東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1579&referer=push_mm_hitokoto
バーチャルな出会いは悪用・乱用といった具合に操作されやすい。実はわれわれは普段から大きく影響されています。
例えば、デマ・扇動があります。仲間グループの歴史や現実を美化して、敵グループのそれをおとしめることで、優越感と差別意識を生み出します。これは多数派ばかりが問題になりますが、実は少数派も結構問題であることがよくあります。同じことを逆方向にし合っているという、救いようのない状態です。
(中略)
こういうことがあると、本末転倒です。バーチャルのためにリアルを犠牲にすることが起こっているからです。私たちが認識しなければいけないのは、やはりバーチャルというのはあくまでリアルな出会いの便利なサロゲート(代行者)であるということです。ですから、現実とのずれを定期的にチェックする必要はあるだろうと思っています。
----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------
10分でわかる「プーチン政治」
山添博史(防衛研究所地域研究部主任研究官)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4427&referer=push_mm_rank
なぜロシアはウクライナに侵攻したか、中国の深謀遠慮とは?
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4393&referer=push_mm_rank
毛沢東そっくり!?習近平の終身独裁制、その現実とリスク
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4387&referer=push_mm_rank
人類史における科学・技術の原動力は「欲求」
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1994&referer=push_mm_rank
差別価格の実例でダイナミックプライシングの真髄がわかる
伊藤元重(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4365&referer=push_mm_rank
----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------
皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。
さて、先週火曜日(3/29)に思考実験についての講義をいろいろとご紹介しましたが、実はそれは、以下の本を読んでいて思いついたことでした。
『思考実験 科学が生まれるとき』 (榛葉豊著、ブルーバックス)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000362470
この本は「シュレーディンガーの猫」や「トロッコ問題」をはじめ、これまでの歴史のなかで行われてきた、いわば思考実験の「名作」を紹介しながら、思考実験とは何か、その意味、方法、可能性についてわかりやすく解説している一冊です。
「じつは科学の世界だけでなく、私たちの人生もまた思考実験の連続です」
これはこの本の冒頭に出てくる言葉ですが、読み進めていくとつくづくそうだなと感じました。そして、思考実験はいわば「想像から創造へ」のためにあるのではないかと。
テンミニッツTVでは、その大事な橋渡しとなる貴重な講義を今後もいろいろと収録・配信していきたいと考えております。大いにご期待ください。
人気の講義ランキングTOP10
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部